今日はなんて残酷な日なんだ。
町を歩けば棒に、ではなくカップルに当たる。
人目をものともせずにいちゃつくカップルはある意味凄いと思う。恋は盲目とはよく言ったものだ。本当に恋人しか見えていないんじゃないだろうか。
結局、モテない男は大人しく巣に帰って今日という日をやり過ごさなくてはならない訳である。モテない男に世間は冷たい。
「俺の居場所はここしかないんだ……って、そう、そう思ってたのに!」
「なんなんだよ……」
寝転んで雑誌を読んでいた先輩が体を起こす。いかにもあぁめんどくせぇ、と言わんばかりの態度である。
しかしこちらはそれ以上に怒っていた。同族だと思っていた先輩に裏切られたのだから当然と言って問題ないだろう。
「先輩がこんなにモテモテだなんて、き、聞いてない、です……!」
「はぁ?」
「とぼけないでくださいっ! こんな、こんなにプレゼント貰ってぇえ!」
山のように、とはいかないまでも沢山の箱が部屋の隅に置かれていた。
「あー……」
先輩はぼりぼりと頭をかきながら言った。
「これ、俺のじゃねぇし」
「は、そんなバレバレの嘘でこの僕が騙せるとでもっ!?」
「ところが嘘じゃないんだなぁ」
先輩は神妙な顔をして腕を組んだ。
「隊長の、なんだよこれ」
「……ええぇ!?」
先輩の顔とプレゼントを交互に見る。
「だ、だって、こんな事言いたくないですけど」
隊長、半人じゃないですか。
周りには誰もいない事は分かりきっているが、無意識に声を小さくする。はじめこそ大声で半人だ、と言うのも躊躇わなかったが、隊長という人物を知ってからはそう言うのは憚られた。隊長は言われなれているのか、全く気にしていないけれど。
「そりゃ隊長は美人ですけど、まだ差別とかあるのに……」
「あぁ、これはご近所付き合い、とやらで貰ったらしいぞ。近所の奥様方からな。で、隊長の部屋に置ききれなくなってきたから少し場所を貸してくれとの事だ」
「マダムキラー……」
「隊長人当たりいいからなぁ」
先輩はまた寝転がって雑誌を読み始めた。

この数分後、また貰ったらしい大量のプレゼントを持った隊長が、手作りのチョコレートを自分達に振る舞ってくれた。
そういえば最初に会った時に頂いたのもチョコクッキーだったな、と懐かしい思い出に浸りながら、男だけの寂しい、しかし楽しいバレンタインデーを隊長と先輩と共に過ごすのだった。



2009.02.16
2010.08.10 再up


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