「……ゴーシュさん?」
配達を終えたザジはぽつりと呟いた。
賑やかな街中、その一角には街から切り取られたように別の時間が流れる静かな場所が存在した。建物と建物の間、空き地のようなそこはいつも猫のたまり場――憩いの場ともいうのか――となっていて、ザジが仕事の行きと帰りに足を向ける場所でもある。
そこの、丁度良いくらいに煉瓦が積まれ、座れるようになっている場所に、彼はいたのだ。
瞳を閉じている。眠っているのだろうか。それでも鞄を離さず、抱えるようにしている。
相棒のロダといったか、彼女もまた、彼と鞄を守るように足元に丸まっていた。
――本当に仕事熱心だ。
彼がこうしてリラックスしているということは鞄の中身は空だろうに。こうして眠ることに……鞄を、いや、中のテガミを大切にすることに慣れてしまっているのだろう。
彼のそういうところを、BEEは尊敬し、そして憧れるのだろう。それはテガミに重きを置かないBEEらしからぬザジにとっても同じだった。
「ん……あーあ、なついちまってら」
なかなか人に寄り付かない野良猫が、何匹もゴーシュに身を寄せ丸くなっている。ふわふわとした雰囲気が惜し気もなく放出されていた。
野良猫の気持ちも分かる。近くに居ると安心するのだ、ゴーシュ・スエードという人間は。
ふ、と自然に笑みがこぼれ、ザジはゴーシュの隣に腰を下ろした。野良猫達が少し迷惑そうに片目を薄く開くのに対し「邪魔するぜ」と笑いながら。
「今日も、いー日、だ、な……」
言葉は次第に小さくなり、やがては空に吸い込まれていった。

2009.11.21 blog


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