目の前でラグ・シーイングが立ち尽くしている。

演じただけ。君の記憶にあるゴーシュ・スエードの姿をそのまま演じただけ。そう吐き捨てるように言ったぼくの姿は、きちんと冷酷に映っているだろうか。自信はあまりない。

顔には出さない。努めて無表情に。

ラグ・シーイングの記憶を見たのは確かだ。そこで、冷酷な己の姿を見た。客観的に、自分ではない自分を見るのはとても不思議で、そして恐怖した。自分は簡単にテガミを奪った。人を傷付けた。ノワールとして生きてきた記憶も勿論残っているが、それでも客観的に見るとこうも惨いことをしてきたのか、と再認識せざるを得ない。許されることだとは思っていない。許されたいとも思わない。

「でなければ、誰があんなまずいスープを」

違うよ。大好きなんだ。忘れていないよ。あれは、暖かい味だった。懐かしい味だった。
口から出る酷い言葉に、己のこころが泣き出しそうになる。こんな酷い言葉を吐く自分が許される道理はないのだ。

ラグは泣いている。泣き虫な友人は変わっていない。しかし、今流しているこの涙は種類の違うものだ。ラグに、流して欲しくない種類の涙だった。

ぼくはそんなラグに容赦なく銃口を突き付ける。ニッチがラグを守ると信頼してのことだった。もし駄目だったら、なんて考えている余裕は無かった。
ガラード達が人質を連れて来る、というのは計算外だ。まさか、足の悪い、何も知らない妹を連れて来るとは思えなかったのだ。実際は妹のシルベットではなく、それを装ったラグだったため、多少手荒に事を進めることは出来そうだが。まずはリバースに信用されなければ計画が進まない。チャンスだと思うことにしなければ。
それに、元はヘッド・ビー候補のコンビ相手にラグを守り切ることは不可能だ。こうするしかない、こうしなければ全てが駄目になる。

顔には出さない。努めて無表情に。

出来ることなら、ラグ・シーイングには自分のことを、「ゴーシュ・スエード」という人間を憎んで欲しい。ぼくのようなテガミバチを目指してはいけない。ラグの未来を妨げる訳にはいかない。もうぼくを追うのをやめて貰わなければ。ぼくに失望してくれたらいい。

「心より大切なものがあることを、君は学ばなければならない」

ぼくは、大切な友人に引き金を引いた。



あのシーンはこんな心の内なら……というご都合主義。

2011.02.07 blog


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