ゴーシュ・スエードがモテるのは知っていた。というより、知らないのは本人ばかりで、ゴーシュを知る人間ならば常識とさえいえる事柄である。
綺麗な銀の髪と暗褐色の瞳、整った顔立ちに温和な表情。職業は国家公務員BEE、しかもユウサリ中央ハチノスのエースという肩書が加わればモテるのは自然のことだ。何の不思議もない。

しかし―――。

「ゴーシュ、これ、なに」
「花屋さんに頂きました。綺麗でしょう」
両手にあふれんばかりの花束を抱えて帰宅したゴーシュ・スエードは今日も今日とてその笑顔を絶やすことがなかった。凄まじく大量の花束を抱えていれば、たとえゴーシュ程の容姿がなくとも人の視線を釘付けにできること間違いなしだ。
こんなものを抱えて歩けばどう考えても恥ずかしいと感じるだろうに、当の本人は綺麗ですね、どこに飾りましょう、とにこにこしていた。
ニッチが「これは食えるのか?」と花束に顔を近付ける横で、ラグはゴーシュの言葉の通り綺麗な花達を眺めながらそっとため息をついた。ロダは何を言うでもなくゴーシュの隣に佇んでいたが、その表情を見れば、呆れているのは一目瞭然だった。
――これ、完全に売り物だよね……。
ゴーシュの自己申告によれば、店主のマチルダさん(43)が、「売り物にならなくなった」花を、「妹さんに」とたくさん譲ってくれたらしい。だが、そんな説明で納得してしまうのはゴーシュくらいのものだ。
どうせ「店にあっても邪魔になるだけだから」とか「もうすぐ廃棄処分になってしまうから」とか言われて押し切られたのだろう。遠慮するゴーシュと花束を押し付けるマチルダさんの姿が、見てきたかのように脳裏に浮かんだ。
「お帰りなさい、お兄ちゃん帰ってきてたのね。……って、きゃっ、何その花束!」
「ただいま、シルベット。これはシルベットにって頂いたんだ」
「え……どういうこと?」
ゴーシュは笑顔をそのままに事の経緯を訝しむシルベットに話した。話を聞くにつれてシルベットの怪訝そうだった表情が次第に納得、そして呆れへと変わっていく。
全てを理解した、というようにシルベットは同く呆れた表情をしているラグにちらりと目を向けた。ラグは苦笑いし、シルベットと二人、同時にため息をついた。
「その花は……、まぁいいわ。小分けにして玄関とリビングに飾りましょう。お兄ちゃんはほら着替えて着替えて! もう夕飯できてるわよ!」
「あぁ、分かった」
とたとた呑気に階段を上る音が聞こえ、シルベットは痛む頭を押さえた。
「何でこうも鈍感なのかしら」
「同感だよ……」
「兄は天然過ぎるわ。悪い虫が付いたらどうしようかしら、多分虫がついても気付かないわよあの人」
「ニッチが守ればよい!」
びし、と金の髪を硬くし、ニッチは姿勢を正した。
「そうね、ニッチ。私達で守るしかないわよね」
天然で少し抜けているところがあるゴーシュは、自分へ向けられる好意には疎いところがある。ラグは以前、ゴーシュが所謂逆ナンされているのを見たことがあった。笑顔に疑問符をたくさん浮かべ、腕を引く女性達に連れていかれそうになっていたのだ。
勿論その時は女性とゴーシュの間に割り込み助けたのだが。
「昔も思ったけどさ。……あれは天然記念物級だよね、鈍さが、さ」
ラグ、シルベット、ロダのため息がユニゾンした。

「シルベットー?」
ゴーシュの声がリビングから聞こえてきた。
「あっ、今いくー! ほら、ラグもニッチも、夕飯にしましょう」
「うん、今日は何?」
「勿論、特製スープよ」
「……ぼく急にお腹が」
「お腹が何?」
痛くなって、という言葉はシルベットの笑顔に黙殺された。

おかあさん、そちらの様子はどうですか。
ここ、ユウサリは今日も至って平和です。




*******後書き***
お題に沿れてない……。
ゴーシュは頻繁に何か理由付けて物を貰っている(押し付けられている)イメージがあります。

2009.11.26


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