「お前は、心弾を撃てるのではなかったのか?」
「……なんの話だ」
ジールは目前に置かれているクッキーをぽりぽりとかじりながらノワールに問いかけた。
が、ノワールはそんなジールにちらと目を向けただけで、すぐ飲みかけの紅茶に視線を戻してしまった。
「深い意味はない。ただ、心弾が撃てるのに何故わざわざ実弾の銃を所望したのかが気になってな。最近お前は実弾ばかりだ」
ジールは手に持っていたクッキーを平らげ、また新しいものに手を伸ばした。
それは先程のものとは種類の違うクッキーで、形状も異なっている。ジールはそれを裏表余すことなく観察し、本能なのか、鼻に近付けて香りを確かめた。
「……殺傷能力が高いだろう。実弾ならば確実に仕留められる。心弾銃で相手を殺すのは難しい」
「理屈は分かるのだがな」
ノワールに上手くはぐらかされているようで釈然としない。そんなことを思いながらジールは手に持っているクッキーを口の中へぽいと放り投げた。
最初に食べていた物と同じ甘い物を想像していたジールであったが、彼の舌が捉えたのはキツい香辛料の辛みのみであった。「辛い」という味覚にはどうしても慣れることの出来ないジールは顔色を変えて硬直してしまう。
「ぼくが実弾銃を手にすることで困ることは何もない筈だ。ロレンスにも許可は取ってある」
ノワールは片手間に読んでいた小さな本を横に置いてため息をついた。そしてジールの前にある空になったカップへ紅茶を注ぎ、彼の前へ差し出す。
ジールはそれを勢いよく手に取り、一気に飲み干した。ある程度冷めていて飲みやすい温度になっていたのが救いだろう。
「それよりジール。君はそろそろ辛い食べ物にも慣れるべきではないのか」
「わ、わかっている」
「そんなことを言って、ロダの作ったカレーを食べなかったのは誰だ。ひどく落ち込んでいたぞ」
「む……うむ。それは、悪かったと、思っているのだが……」
「後で謝りに行くといい。ロダはこういったことは気にし過ぎるから」
ノワールは「味付けがいけなかったのでしょうか……」と表情をあまり変えずに落ち込んでいたロダを思い出してふっと頬を緩めた。
ロダは普段からあまり表情を変えない。そのため、少しでも表情を変えた時、普段のロダとのギャップにどうしても微笑ましく思ってしまうのだ。
ジールはそんなノワールをじっと見詰め、徐に口を開いた。
「ノワール。お前はもっと笑っていた方がいいぞ」
「……? 何だ急に」
「ロダもそう思うだろう?」
いつの間にか部屋の入口に立っていたロダは、前にもった紙袋をぎゅっと抱きしめ、頬を微かに赤く染めてこくこくとしきりに頷いている。
自分が笑っていたという意識のないノワールはますます首を傾げる羽目になった。
「あ、ノワール。ロレンスが呼んでいたので、伝えに来たのですが……」
「ん、それじゃあちょっと行ってくる」
「いえ、行く必要はありません」
立ち上がろうとしたノワールを、ロダは片手で制止し、自らはその隣の空いていた席にすとんと座ってしまった。
「……? でも、呼んでいたんだろう?」
「どうせ下らない呼び出しでしょうし。……それよりも、ジールと私と三人でお茶にしましょう」
実は追加のお菓子を持ってきたのです。ロダはそう言って持っていた紙袋を開けて見せた。中には様々なお菓子が詰まっている。
ロレンスの呼び出しが毎度毎度下らないことなのは確かだ。暇な時はその呼び出しにいつも応じてはいるが、飽き飽きしていたのも事実。
「……うん、そうだね。今日くらい行かなくたって、構わないかな」
ノワールは行く必要がないと結論付け、椅子に座り直した。
ロレンスの所に出向いてぐだぐだと無意味な時間を過ごすよりもここに居た方が心地好いだろう。そう考えてのことだった。知らずの内に再び頬が緩む。

「……やはり笑っていた方がいいな」
「ええ、同感です」

ロダとジールの二人はそう言い合って紅茶を啜った。

「……だから、それは何の話なんだ……?」

知らぬは、当事者の一人だけ。





*******後書き***
ゴーシュはふわふわぽややん。
ノワールはぼんやりぽややん。
だったらいいなーと勝手に思っています。ノワールは普段ぼーっとしていて蝶々とか目で追いかけちゃうと可愛いかなと。

2011.02.14


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