3.

ゴーシュを気絶させたのまではいいとして、さて、これからどうするかが問題だ。
ぐったりと倒れているゴーシュの身体は、ニッチの髪のベッドで安定させているが、ずっとこのままという訳にもいかないだろう。大体、起きたら休まずにそのまま、少し寝てしまった分を取り戻すように仕事に励んでしまうだろう。それでは元も子もない。
「どうしよう、ニッチ……言ってもゴーシュ、絶対笑って流して、休んでくれないよね」
「起きたらまたラグがさっきのしゅぴっ、というやつをやればいいではないか」
ニッチは空いている手で空を斜めに「しゅぴっ」と言いながら切った。
「いやいや駄目だよ、毎回気絶させるとか……、さっきは何とか上手くいったけど、変なところに入っちゃったら嫌だし」
「ううむ」
ニッチはよく分からない、といったように腕を組んで唸った。
「……ラグ、あれに頼んでみてはどうだろうか」
「あれ、って? ……あ、博士っ!」
「ん……おお、ラグ・シーイングではないか。と、それはスエードか?」
どうしたんだ、と覗き込んでくるサンダーランドJr.が、今は天使にさえ見えてしまった。
ラグは縋るような気持ちで、というか、物理的にサンダーランドJr.に縋りついて泣いた。ニッチもラグの真似をしてサンダーランドJr.に詰め寄っている。縋るのは嫌だったのか、その距離は少しあるが。
「博士ぇええ! ゴーシュが、ゴーシュがぁああ」
「わ、わかった! わかったから落ち着けラグ・シーイング!」
足にへばりついてだーっと滝のような涙を流すラグにサンダーランドJr.は若干引き気味なるが、ラグはまるで地を這うゾンビか何かのような顔で博士に詰め寄るのをやめない。
このままでは話も聞けない、とラグにとりあえず手刀を叩き込もうとするが背後からの流石は摩訶と思わせる凄まじい威圧感によりそれは断念せざるを得なかった。サンダーランドはある程度、自分の身を守る程度の護身術ならば拾得していると自負しているが、それでもこのラグの相棒、ニッチが相手では勝ち目がないのは明白である。
結局、泣き喚くラグを必死に宥め、泣き止んだところで優しく事情を聞き出すのに数十分を要したのは言うまでもないことだった。











「そ、それで……ゴーシュ、顔色悪くて、だから……う、うぅ……」
「うわ、な、泣くなよ? もう泣くなよラグ・シーイング。泣かれてはもうどうしようもないからな!」
じわりと涙を浮かべているラグに、先程の光景が蘇ったのかサンダーランドJr.はびくりと体を震わせて慌てたように手を振った。冗談じゃない、あの惨劇を二度と繰り返してなるものか。サンダーランドJr.は心の中で固く誓った。
いまだにぐすぐすと涙を滲ませているラグではあったが、先程よりは落ち着いているらしく、あのように取り乱すことはないようだ。それを見て一安心し、サンダーランドJr.は「しかし」と顎にてをやった。
「ふむ……、まぁ、確かにスエードは最近働きすぎなところがある。今日一日休むくらい許されるだろう。というか、誰かが何かきっかけを与えてやらなければこいつは休もうとしないだろうからな」
「ありがとう、博士……! ゴーシュをきっちり休ませてあげてくださいね!」
顎に手をやり「うんうん」と頷いている博士を見、ラグは涙の滲む思いであった。
博士は確かに胡散臭いし、すぐに解剖解剖騒ぐような人だが、医者としての腕は確かだ。彼に任せておけば、取り合えずは一安心だろう。これで、何とかゴーシュをゆっくりと休ませてあげることができるはずだ。
ラグは休養をとって顔色の良くなったゴーシュの姿を思い浮かべて頬を緩めた。



ラグが、自分の考えは甘かったと後悔するのはこの後、数時間後のことである。





2011.02.06


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