「ゴーシュさんは、グレン・キースを最速で退治したんですよね」
「ほぇ?」
目の前で少々熱い紅茶の入ったカップを両手で持ち、ふーふーと冷ましていたゴーシュは、突然かけられた言葉にきょとんとし、気の抜けた返事を返した。
そんな返事を気にすることもなく、ザジはまっすぐにゴーシュを見、言葉を続けた。
「鎧虫を倒すコツとか、あるんですか?」
「えっと、コツ、ですかぁ」
んー、と考えながらゴーシュは紅茶を口に運んだ。
ザジと偶然会ったのはつい先刻のこと。
仕事帰りらしいザジが広場で猫と戯れているのを発見し、ゴーシュが「暇でしたら、お茶でもいかがですか」と誘ったという訳だ。
しかし、ザジは美味しい紅茶とお茶請けのクッキーがあるにもかかわらず、何故かゴーシュから視線を外さずにいた。ゴーシュが促すとクッキーをぽりぽりとかじり始めたが、それでも視線はゴーシュに固定されたまま。
最初はそれに疑問を感じていたゴーシュだったが、特に問題ないだろうということで、ザジの視線を気にしないことにして紅茶を飲み始めた。
その時、ずっと静かにしていたザジが口を開いた。それが冒頭の台詞という訳である。ゴーシュはうーん、と考えながら、言った。
「ぼくはそういうのを考えながら仕事をしている訳ではないので……ただ、鎧虫はぼくの仕事の邪魔をするから排除するに過ぎないのです」
鎧虫の駆除はあくまでもついでに過ぎない。
テリトリーや弱点、習性等の調査も行っているゴーシュではあるが、これは他のBEEが安全に、素早くテガミを配達できるようにするために行っているものだった。
テガミを配達するには鎧虫の駆除が不可欠。だから駆除する。それだけだ。
「でも、ゴーシュさんは誰よりも強いし、早い。俺も、ゴーシュさんみたいになりたいんです」
真剣な顔で見詰めてくるザジに、ゴーシュは困ったような笑顔を浮かべた。
「ぼくみたいになっても、良いことはありませんよ」



2010.12.04 blog


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