「ゴーシュ、見てよこれ!」
ラグはけたたましくリビングに駆け込み、じゃーん! と手に持っていた紙を広げて見せる。
リビングでくつろいでいたゴーシュは読書の手を止め、ラグに広げられている紙に目をやった。そこには沢山の赤い丸と、"100"の数字が誇らしげに書かれていた。
「わぁ、百点満点ですか。凄いじゃないですかラグ」
「えへへ、ゴーシュに教えて貰った所ばっかり出たんだ! ゴーシュのお陰だよ!」
「確かにぼくも少しは教えましたが、ラグは殆ど理解していたじゃないですか。これはラグ自身の実力ですよ」
試験前の一週間、ラグはゴーシュに「勉強を教えて欲しい」と頼み、みっちり勉強を見て貰っていた。試験の科目は、ラグの通うテガミバチ養成学校ならではのBEEに関する知識や鎧虫に関する知識を問うものや、一般教養などを問うものもある。
ラグは真面目な性格であり授業も真剣に聞いてはいるのだが、今回は初めての試験ということもあってかやはり不安を抱かずにはいられなかった。大まかな知識は得たつもりではあったが、細部については、ラグ自身、正直微妙なところがあったのだ。そこで、憧れの人でもあり、身近な年上ということでゴーシュ・スエードに教師役をお願いしたという訳だ。


ラグはこのスエード家に居候という立場でお邪魔している。というのも、ラグの実家はヨダカにあり、ユウサリまで通学するのは無理だということと、母親であるアヌが病弱だという二つの理由があるからだ。母親を一人でヨダカに置いてくるのは非常に心配ではあったが、「何かあったら親戚の方に頼むから大丈夫よ」とアヌは笑って送り出してくれた。今は母親の好意に甘えることにして、早く一人前のBEEになろう。そして早く生活を楽にしてあげよう。ラグはそう考えていた。
とはいってもユウサリで住まいを見付けるというのも容易な話ではなかった。大体、ユウサリに借家とはいえ家を買うためのお金も無かったのだ。学校の方は特待生ということで"学費免除"という形でなんとかなっているが、生活費についてはどうにもならなかったのだ。まったく考え無しでヨダカから出てきてしまったため、行くアテもなかった。
学校長に事情を話し暫くは仮眠室に居てもいいということになったが、勿論ずっとそのままという訳にもいかない。最悪、退学しなくてはならないだろうか、とまで考えたが、それでは母親の好意を無駄にすることになる。それだけは、絶対にしたくなかった。
そんな時に「ぼくの家でよろしければどうですか?」と言ってくれたのがゴーシュ・スエードその人なのだ。
前に少しお世話になり、そしてラグの憧れの人でもあったゴーシュはその話を聞くなり住まいの提供をしてくれると言ったそうだ。どうやら、BEE-HIVEにまで「特待生で家の無い奴がいる」という噂が流れていたらしい。


そんな、無償で衣食住を提供してくれたゴーシュに勉強まで見て貰うというのもおこがましい話かと思ったが、駄目もとで申し出てみるとそれは意外なことにあっさりと了承された。ゴーシュ自身、ラグのしてきた初めての頼み事が嬉しかったのだ。

「ぼく、ゴーシュみたいなテガミバチになれるかな?」
「きっとなれますよ。ラグなら、ぼくなんかよりずっと上にいけると思いますよ」
「ええー? それはあり得ないよ、だってゴーシュ、超人過ぎるもん」
ラグはゴーシュに勉強を見て貰っていた時の事を思い出す。勉強の際、ラグが問題集を解き分からない所は質問をする、というスタイルをとったのだが、ゴーシュの恐ろしいところはどんな問題にでもすらすらと答えてしまうところだ。専門の分野はともかく、言語学や数学、力学までも精通しているのか、とにかくゴーシュ・スエードは博識な人物であった。
しかも間近で仕事ぶりを見た時の印象からすると、どう見ても知識だけ、ということはないだろう。文武両道。超人以外の何者でもないだろうとラグは確信していた。しかし、当の本人にそのような意識はないようで、「ラグは本当に、ぼくよりもいいテガミバチになれると思いますが……」なんて呟いている。
「って、ラグ。まだ鞄も置いてきてなかったんですね」
「え? あ……、そ、そうだったっ」
試験で満点を取ったのが嬉しくて、帰宅してすぐにゴーシュに見せに来てしまったため、鞄は足元に放られたままになっていた。慌てて鞄を手にするラグを見て、ゴーシュは優しく微笑んだ。
「ほらほら、早く鞄を置いて、着替えてきて下さい。おやつにしましょう」
「うん!」
ラグは鞄を持って、ゴーシュと二人でのおやつタイムを思い浮かべて頬を緩めながら階段を駆け上がったのだった。





*******後書き***
「小学校パラレル、保護者ゴーシュと懐きまくりのラグ」でした。
二人きりかと思われたおやつタイムには、実はシルベットも参加するのです。それはそれで幸せなおやつタイムなのですが。

2010.11.11


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