「あ、お兄ちゃん。そういえば、お昼にこんなの貰ったんだけど」
夕飯も終え、お茶を飲みながらの談笑中、シルベットは思い出したように戸棚から一枚の紙を取り出し、テーブルの上に広げて見せた。ゴーシュはそれを覗き込み、大きく書かれた見出しを読み上げた。
「"空き巣にご用心! 次に狙われるのはあなたかもしれない!" ?」
「うん。ここ最近ね、この辺で頻繁に空き巣が出るみたいなの。まぁ、家は私がずっといるから大丈夫だとは思うけど、一応用心してね、って隣のおばさんが持ってきてくれたの。すごく心配してくれたのよ」
えへへ、とはにかむシルベットはとても幸せそうだった。
「そうなんだ、今度会ったらお礼を言っておくよ」
スエード家の隣に住む女性は、いつもゴーシュやシルベットのことを気にかけてくれている。夕飯があまったから、と差し入れしてくれたり、旅行に行った帰りには必ずと言っていいほどお土産を買ってきてくれるのだ。
ゴーシュが家に居ない間、シルベットの話し相手にもなってくれているようで、ゴーシュは何かと世話を焼いてくれる彼女に感謝してもしきれないくらいの感情を抱いていた。
「それにしても空き巣なんて……、物騒だな。いくら家にはシルベットがいるとはいえ、シルベットは車椅子だし……」
「大丈夫よお兄ちゃん、私は車椅子の女豹よ? 空き巣なんかに負けないんだから!」
「はは、それは頼もしい。でも、心配なものは心配だよ、シルベット。いつもなるべく早く帰るようにはしているんだけど……」
「ん、そんなの分かってる。同僚のお誘いとかも断ってきてくれてるんでしょ? ラグから聞いてるわ」
シルベットはくすくすと笑った。
「そこまでしてくれなくてもいいのに。私はもうそんなに小さい子どもじゃないし、仕事だってできるんですから! お兄ちゃんもちょっとくらい遊んで来ればいいのよ」
「でも、シルベット……」
「もー、私に遠慮なんてしなくていいのよ?」
「えーっと、シルベット、そうじゃなくて、いや、シルベットのために早く帰って来ているっていうのも勿論あるし、それがメインの理由なんだけど。んーと、うー……」
「お兄ちゃん、ほんと不測の事態にはトークが下手になるわね」
「ご、ごめん……」
ゴーシュはシルベットに図星を突かれ、反論することもできずにしゅんとうなだれた。
「いーのよ。だってその方が可愛いしね」
「かわ……?」
「なんでもない。で、何なの? 何か理由があるの?」
「あー、っと、シルベット……笑わないで聞いてくれるかな」
「笑わないようなことをお兄ちゃんが言うならね」
「うぅ……」
にっこりと笑顔を向けてそう言うシルベットに、ゴーシュは少しだけ挫けそうになるが、それでも意を決して大きな声で言い切った。シルベットから目を逸らし、右下に視線を向けたまま、ではあるが。



「……っと、友達なんてあまりいないから、遊び方が分からないんだ!」





*******後書き***
敬語じゃないゴーシュにも萌えます。どんなゴーシュでも私は愛せる。

2010.07.08


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