そこにあったのは、実に質素な佇まいの一軒家であった。
ユウサリの外れ、ヨダカに程近いこの場所ではアカツキからの光もあまり届かず、薄暗い。とはいえ、ヨダカ程完全に真っ暗という訳ではないのでこの程度なら明かりがなくても生活は可能だろう。実際、自分も明かりがなくてもあの悪路を進んでくることができた。
確かに明かりがなくても生活は可能なのだが……。
「超、不気味だな……うん」
薄暗く人気のない場所にある、明かりのついていない一軒家。ホラーか、と突っ込まずにはいられない。
中にいるのが”ユウサリ一の怠け者”ということを加味して考えると、死んでいるんじゃないか? という恐ろしい考えまで浮かんできた。
「ど、どどどどうしたらいいんだ? もし死んでたら、えっと、心臓マッサージ? あ、いや、手遅れだよな……」
折角たどり着いた目的地。しかし、それを前にして立ちすくんでいる自分は一体。決して、決して怖いとかそういう訳ではないのだが、それでもこの扉をノックするのは躊躇せざるを得ない。
扉から二、三歩だけ遠い場所でああでもないこうでもないと頭を抱えて悩んでいると、あの相棒がてこてこと扉へ歩きだし、カリカリと爪を立て始めた。俺は声にならない声で相棒を呼び戻そうとするが、相棒はといえばこちらをちらりと一瞥しただけで、むしろ先程よりも勢いよくガリガリと爪を立てているではないか。まるで「お前がやらないから俺がやってやる」とでも言わんばかりだ。
あまりにもぐだぐだだった俺に痺れを切らしたのだろう。思い切りのいい奴である。怖いもの知らずとも言える。
暫くそうしていると、中から「はいはーい!」と快活な明るい返事が聞こえ、続いて扉が静かに開かれ、少女が姿を現した。銀の髪に暗褐色の瞳、おそらくアルビス種の娘だろう。年は俺よりも少しばかり上のように見える。
非常に可愛らしい容姿をしていて、その明るそうな雰囲気も手伝ってこの薄暗いユウサリの外れが一瞬明るくなったような気さえした。
「あ、あの、テガミの配達で来たんですが……」
「あら、テガミ? ああ、これは多分お兄ちゃん宛てね……。お兄ちゃーん、テガミ来てるわよー!」
暫く足下にいた相棒を可愛い可愛いと撫で回していた彼女だったが、俺がおずおずと用件を告げテガミを差し出すと、それを覗き込みどこか呆れたような表情になった。
「あ、それじゃあ、私は仕事があるからこれで」
そう言うと、彼女はとそのまま走って出かけてしまった。
「確かにあの子は”怠け者”って感じじゃなかったもんなぁ。その兄が怠け者なのかな」
それにしても可愛い子だったな、と緩んでしまいそうになる頬を必死に押さえ付け、怠け者だという彼女の兄との面会に備えた。





 → 6

*******後書き***
こちらのシルベットは足が悪くありません。だ、だって足が悪かったらゴーシュも悠々自適に引退生活できないじゃないですか。
スエード兄妹には幸せになって欲しいです。

2010.06.08


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -