「ちくしょう、一週間もかかる訳だよ」
ぼやきながら、岩場をよじ登る。相棒はさっさと登ってしまって、何をするでもなく俺のことをじっと見つめているだけだ。正直、こいつには愛想の一つでも必要なのではないかと思う。
出発して早三日。地図上では楽そうに見えたこの道、しかしそれは決して平坦な道などではなく、大小の岩が乱雑に転がる酷い道だったのだ。この先に人が住んでいるのなら、この岩をどけて道を作ってやるべきではないだろうか。そうしなければ町へ買い出しに出かけるのも容易ではないだろう。
「……でもこの先にいるのは”ユウサリ一の怠け者”だもんなぁ、買い出しなんか行かないで宅配して貰ったりしてんのかなぁ」
はぁ、とため息をつきそうになって、慌てて頭を勢いよく左右に振った。こんなところで疲れていてはきっと目的地まで持たない。俺はテガミバチだ、宛先がどこだろうが、どんなヤツだろうが、知ったことではない。仕事は仕事、割り切らなければ。
そう考えると何だか少しだけ楽になったような気がして、そのまま岩場を一気に登りきった。登りきったことで微妙な達成感を感じていると、それを邪魔するように相棒がくいくいとズボンの裾を引っ張る。「邪魔するなよ、今最高に気持ちいいところなんだから」と抗議しようと相棒が見つめる先に無意識に目を持っていって、俺はそのまま固まってしまう。
先程越えてきた岩場より、はるかに高く険しい岩場が待ちかまえていたのだ。
「え……ええぇ……」
何だ、この脱力感。今までせっせと登ってきていた岩場が初心者用の訓練施設か何かに感じる程、今、自分の目の前に立ちはだかる岩場は恐ろしいものだった。
折角ここまで登ってきたというのに、と絶望感に打ちひしがれている間に、俺の相棒はといえば岩場の中程まで登りきっていた。主を慰めることもせず、それどころか主を置いていく相棒がどこにいるだろうか。こいつを相棒にしたのは間違いだったかもしれないとちょっとだけ後悔したが、それでも結局、この岩場を登らなくてはならない事実は変わらない。
それに、先ほどから雲が出てきている。雨が降りそうだった。
「この道を三日って、嘘だろ……っ!?」
もう出発して四日目。何故だ、まだ道程の半分を過ぎたくらいまでしか進んでいない。これでもいつもより早め早めにと進んできたというのに。
しかし、今、俺にできることといえば、泣きながらこの岩場をよじ登ることだけであった。





「……死ぬ」
何もやる気がしない、そんな時を誰しも一度は経験しているだろうと思う。俺は、今まさにそのような状況だった。
悪夢のような岩場を越え、谷を越え、うっかり鎧虫のテリトリーに踏み込んでしまったり、もう散々な目に遭った。
相棒はといえば、やはり我関せずとばかりに欠伸なんかしてくつろいでいらっしゃった。こいつ、ほんとに愛想が一番足りていないと思う。
「とはいえ」
ぐったりとしていた身体に力を入れ、上半身だけ起こして少し遠いところに見える建物に目をやった。
「やっと、着いたぞ……」

 雨雲はまだ遠のかない。





 → 5

*******後書き***
次の次くらいにはやっとゴーシュさんを出せる予定!

2010.06.07


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