館長の言葉がどうにも引っかかる。あいつ? あいつって誰のことだ?

ジキー・ペッパーのことは勿論知っている。多分BEEで知らない人はいないんじゃないだろうか。仲間内でも鉄の馬を操り、駆ける姿が格好良いと大評判だ。実際、俺も彼のことは格好良いと思っている。
以前、仕事が終わりハチノスへ帰館しようとしたとき、丁度進行方向から来たジギー・ペッパーとすれ違ったことがある。はっとして振り向けば、その背中は既に遠く小さくなっていた。こころを燃料に走る鉄の馬は並大抵のこころの持ち主では乗りこなせないという。強靱な精神を持った彼だからこそ乗りこなせるのだ。
「”あいつ”ってヤツも、何か乗り物を乗りこなしてるってことなのか……? でも、そんな話聞いたことないし。なぁ?」
隣を歩くディンンゴに同意を求めれば、聞いているのかいないのか、大きな目で見つめ返された。小さい猫のような姿をしたこのディンゴは、普段はぷるぷるとしていて非常に頼りなく見える。しかし、一度戦闘となれば誰よりも頼りになる相棒なのだ。結局、その頼れる相棒はどうでもいい、とでも言うようにそのままぷい、と視線を前に戻してしまった。BEEの情報は基本的に、同業者に対して公開されている。知らない者とチームを組んで配達をする時、相手のことを少しでも知っておいた方がいいため、という名目で公開されているものの、利用者は意外と少ない。四六時中情報閲覧室にいる訳ではないが、自分がそこに入り浸っている時には、他の利用者の姿を見かけた事がないのだ。友人達も、「知らないヤツとチーム組む時でも前もって情報を知ろうとはしない」と言っていた者が殆どだった。
そこではグレン・キースを最速で撃退したラグ・シーイングや、そのディンゴのニッチ、鉄の馬を操るジギー・ペッパー等の有名なBEEの資料は大きく取り上げられている。ピックアップされているBEEの資料はもとより、そうではないBEEの資料にまで一通り目を通したにも関わらず、館長の言っていたBEEに該当するような資料はなかったように思われる。
「…………考えても仕方ないか。さっさとテガミ届けよう」
そんなに凄腕なBEEなら、あの噂になっている偶像とは違ってそのうちお目にかかることもあるだろう。今は館長から預かったテガミを無事宛先に届けるのが先決だ。
大事に仕舞い込んだまま、きちんと宛名を確認しないままだったテガミを取り出し、もう一度しっかりと確認する。
「”ユウサリ一の怠け者へ”? なんだこりゃ、住所はちゃんとしてるみたいだけど」
住所は館長に直接聞いたものと間違いはなかった。しかし、宛名の方がどうもおかしい。明記されているそれは、人名とは考えられない。おそらく、親しい者に宛てて少しふざけて書かれたものなのだろうけれど。それにしても”怠け者”とは。どれだけの怠け者が出てくるのだろうかと少しばかりげんなりしながら、俺は道を急ぐことにした。この辺りは足場が悪く、長居していたらそれだけで疲れてしまいそうだった。さっさと抜けるに越したことはない。

今日はまだ出発したばかり。道は長い。





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*******後書き***
話が進まない……。

2010.05.22


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