ユウサリの外れには凄腕のBEEが住んでいる。

そんな噂がまことしやかに囁かれるようになったのはいつ頃からだったのか、五年前か、一年前か、はたまた十年前かもしれない。勿論、今となってはそんな話を誰が言い始めたのかも分からなくなっている。何から何まで曖昧、噂というのはいつでもどこでもそういうものだと相場が決まっている。
しかし、この噂の知名度はここ、ユウサリ中央BEE-HIVE内に限っては高いもので、最早「トイレの花子さん」並に殆どの者が知っていた。噂に常識もなにもないが、常識とさえ言ってしまえそうな程の浸透具合である。新入りが入ったときに行われる新歓や、茶飲み話などでも時々話題にされることもあるくらいだ。
「あのグレン・キースを一日も……いや、数時間もかからずに倒したらしいぜ!」
「それってあのラグ・シーイングよりも」
「ああ、あの人よりも断然速い」
「すげぇ、バケモノかよ」
「その気になりゃあ素手で鎧虫も倒せるらしいな」
「いや、それは流石にないだろー」
どっと笑いが起こった。徐々にエスカレートしていく「凄腕のBEE」像に、俺は隠しもせず盛大にため息をついた。友人達は話に熱中していて、ため息をつこうが何をしようがどうせ誰も聞いてはいないだろう。暇すぎてちびちびと飲み続けていたグラスの中の水はすっかり空になってしまった。
グレン・キースをあのラグ・シーイングよりも速く倒した? 何を根拠にそんなことを言っているのだろうか。もしそうならしっかりと記録に残っている筈だ。しかし、いつ見ても記録の一番上、最速記録にはラグ・シーイングの名が刻まれているのだ。こいつらは記録などを閲覧には行かないのだろうか。
下らない噂。大した腕もないBEEが造り上げた憧れの偶像。実際はそんなところだろう。
そんなに凄い人がいたら、今頃このユウサリ中央のBEE-HIVEに勤め続けているかアカツキへの転勤をしているに違いない。しかし、そんな話は聞いたこともない。いくらアカツキから入ってくる情報が少ないとはいえ、それほどまでに「凄腕」ならば当然話を聞くことくらいはある筈だ。
下らない。本当に、下らない。偶像を祭り上げて何になるっていうんだ。俺は空のグラスを音を立ててテーブルの上に置き、そのまま席を立った。大きな音を立てたにも関わらず、それに気付く者はいなかった。





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*******後書き***
前にちょっとブログに書いた、ゴーシュ引退パラレル。深くは考えない見切り発車。
完全に趣味の世界。短い文が続きます。
語り手の彼はオリキャラで、一人称が「俺」、尊敬・目標とする人は「ラグ・シーイング」という事しか決まっていません。

2010.04.02


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