「ゴーシュ!」
だん、とテーブルを力強く叩き、ラグは身を乗り出した。思い切り打ち付けた手の平がじんじんと鈍い痛みを伝えてきたが気にしている余裕はなかった。
小さく開けてある窓から風が入り、白いカーテンを揺らす。ラグは大きく深呼吸し、意を決したように前を見据えた。
「ぼ、ぼくは、ゴーシュのことが」
心臓が胸を突き破ってしまいそうに感じる。もう、呼吸するのも苦しい。先程からずっと赤かった顔が更に赤みを増していく。
ゴーシュ・スエードは憧れの存在だ。ラグの最終目標とさえ言っていい。父親や、兄のように感じたこともある。
何度か仕事中の姿を見かけることもあったが、その姿を見れば憧れても、尊敬してもおかしくはないだろう。
だからといってこんな感情を抱くのはおかしいのかもしれない。でも、それでも。
「前から、ずっと……、ゴーシュのことが、す、」
口が上手く動いてくれない。何だか自分の一部でないように感じて、ラグの精神がどこか違うところに飛びかける。
ぎゅっと目を瞑った。「す?」と首を傾げる大好きなゴーシュの姿が目に浮かぶ。
「す」
心臓の音とこの前新調したばかりの時計が時を刻む音が混同して聞こえる。
あぁ、駄目だ。駄目だ。

――駄目だ!

「あああぁああぁぁ! 言えない! 言えない! 絶対言えなぁいぃいっ!」
がばっとテーブルを挟んで向かい合っていたシルベット作のゴーシュ人形に抱き着く。抱き慣れた感触が伝わってきて不思議と安心した。
ラグは朝起きてすぐに、出掛ける前に、帰ってきてすぐに、寝る前に、そして不安な時などにはいつもこの人形に抱き着着いているのだ。更にその抱き心地も相俟って、安心感が生み出されるのだろう。
人形に抱き着いて一通りリラックスした後、ラグは緩みまくった表情を引き締め、第二回戦を始めるのだった。


2010.01.20 blog


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