SSS「ゴーシュとシルベット」の続きです。



隙間風が頬を撫で、その冷たさにラグは目を覚ました。寒さに震える身体を抱きしめるように摩り、暫くぼんやりと隣に眠るニッチを眺めていたが、はっとして飛び起きる。
「ね、寝ちゃった……!?」
最後にある記憶よりも明らかに暗くなっている室内は、時間の経過を表していた。時計を見れば新年になって少しばかり経った時間を示している。
ラグは見るからにがっくりとうなだれ、床に手をついた。
「ゴーシュと年越し……ゴーシュと、年越し……うぅ……」
緩い涙腺からはもううっすらと涙が滲んでいた。電気が消されているということはゴーシュももう寝てしまったのだろう。
数日前からこの日のために計画を練っていたというのにこの失態。きっとゴーシュは寝てしまった自分を見て苦笑しながら布団まで運んでくれたのだろうと思うと更に涙があふれそうになる。
「新年になったと同時にゴーシュに挨拶したかったのに……ぼくが初めての男になる予定だったのに……」
最近の12歳はとんでもないことを口にするのが流行っているのか、シルベットに負けず劣らず、ラグはラグで爆弾発言をかましていた。とはいえラグは純粋に「初めて挨拶をする男」の意で言っているのだが。
「んん……、もう朝か、ラグ……」
「あ、ごめん、ニッチ。起こしちゃったね。……まだ夜中だから寝てても大丈……」
隣で身じろぎ始めたニッチに視線を移そうとして、その途中、視線が一カ所に固定された。最初はぼんやりと眺めているに過ぎなかったが、次にはかっと目を見開いて凝視してしまう。
今まで微かに残っていた眠気がすうっと消えていくのを感じた。
「はう!?」
ラグの視線の先、そこには身を寄せ合って眠る兄妹の姿があったのだ。
どちらも、満ち足りたような柔らかな表情をしている。夜中だというのに、二人の姿はやけに輝いて見えた。可愛い。
「う、羨ましい……っ」
「うまらやしいか」
ぼくだって毎日でも一緒に寝たいのに、とラグはうなだれる。初めてまじまじと見ることのできたゴーシュの寝顔は凄まじい破壊力だ。ずきゅんとハートを打ち抜かれながら、それでもラグはしっかりと二人の寝顔からは目を離さなかった。
暫くそうした後、ラグは隣で興味津々といったふうに二人を見ていたニッチに切り出した。
「ニッチ、布団こっち持ってこようか」
「なにゆえ」
「一緒に寝よう、うん」
誰にともなく頷き、「仲間外れはよくない」とか、「ぼくたちだけじゃ寒いもんね」とか、ラグはニッチに向かって、いや、自分に向かってとも言えるだろうか、とにかく、意味のない言い訳を並べ立てていた。
本音は結局のところ「ゴーシュと一緒に寝たい」「シルベットはずるい」というだけなのだが。
「みんな一緒か」
ニッチは「しやわっせ、だな!」とはしゃぎながら自分の寝ていた布団をずりずりと移動させはじめた。ラグもそれを追うように布団を引っ張る。ニッチにいくらか遅れて、それでもゴーシュの隣に布団をくっつけることに成功した。ニッチは反対側のシルベットの隣である。
「ふう……これでよし、と」
すやすや眠るゴーシュの隣にぴったりと付けるように敷いた布団を、ラグは締まらない顔付きで眺めた。
シルベットには遅れをとったが、それでもゴーシュと一緒に眠れるというのは、ラグにとって天にも昇るような出来事だ。ニッチの言う通り「しやわっせ」なのである。
頬を緩ませながら、もう冷たくなってしまった布団に入る。ニッチの方を見れば、そちらは既にシルベットに抱き着いて寝息を立てていた。
「おやすみ」
未だに大きなゴーシュの背中に抱き着くと、感じていた寒さが嘘のように消え去った。伝わってくるのは、ぬくもりと安心感。


今年も良い年になりますように。





*******後書き***
夜のラグは大胆です。あれこれ誤解を招きそうな言い方ですね。
夜中って妙なテンションになることありますが、このラグもそれ。一緒に寝よう、なんて昼間は言えなくてはわはわしているのでしょう。
「ゴーシュ、今夜一緒に……」
「今夜? 何ですか?」
「……なななな、なんでも、何でもない!(赤面)」
↑これぞラグ。
言えばきっとゴーシュは一緒に寝てくれるぞ、ラグ!

2010.01.28


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