新年はゴーシュと一緒に迎えるんだ! と興奮したように騒いでいた少年は、今はすっかり静かになって毛布の中に丸まっていた。
新年を迎えるにあたり、菓子や飲物やらをどっさりと用意したのだが、それは意外にも半分も消費されずに終わってしまった。というのも、新年までまだ数時間あろうという時間に寝てしまった少年と、その相棒の少女、そしてその非常食が原因である。
ゴーシュも二人が寝てしまったのに気付いたのは読んでいた本から目を離し、菓子に手を伸ばした時だった。折り重なるように寝ていた二人に一瞬ぎょっとしたが、寝苦しいだろう、とすぐに引き離して敷いておいた布団まで運んだのである。
「……ラグとニッチ、寝ちゃったの?」
「ステーキもね」
二人が蹴飛ばして乱れた毛布を直してやっていると、シルベットが声をかけてきた。しかし、その声もどこか眠たそうで、彼女もここで眠りこけているラグと同い年であることを思い出す。
「シルベットも、もうおやすみ。新年だからって夜更かしなんてするものじゃないよ」
まだ眠くない、とシルベットは主張するが、呂律の回らない声で、しかも目をこしこしと擦りながらでは説得力の欠片もない。
苦笑しながら寝室へ送ろうとしたが、彼女はゴーシュの服をぎゅっと掴み、嫌嫌と首を振った。
「みんなといっしょに、ねたい……」
「シルベット」
「ここで、いっしょに、ねよう? お兄ちゃんも、いっしょ」
服を握る力が一瞬強くなり、しかしすぐに力の抜けた手が滑り落ちる。シルベットはもう目も開けていられないようで、目を閉じたままうぅー、と寝言のように、意味のない言葉を発していた。
ここで一緒に寝よう、と告げられた言葉に、ゴーシュはどうしたものかと思案した。妹の願いは極力叶えてあげたいと考えているゴーシュだが、こんな所(玄関近くのリビング)に妹を寝かせるというのは些か躊躇われた。
穏やかに眠るラグとニッチ、限界の近いシルベットを交互に見、ゴーシュは困ったように笑い、「仕方ないな」と呟いた。

「おにーちゃん」
「なに、シルベット」
「どこいくの」
「え、布団を取りに……」
「ひとつあれば十分でしょ」
リビングへ布団を運び込んだゴーシュは、車椅子から降ろしたシルベットをそこへ寝かせ、毛布を丁寧にかけてやった。
さて次は自分の分、と踵を返そうとした所、いつの間にか起きていた彼女に呼び止められたのである。
「ここで一緒にねよ?」
「え、えぇっ?」
「だいじょーぶ、へんなことしないからぁー……」
ふにゃふにゃと呂律の回らない妹はとんでもないことを口にしていた。変な事って何だ、と首を傾げていたのはゴーシュばかりである。ラグが起きていたのなら大慌てするところだ。
確かに運び込んだ布団は来客用のものだし、いくらゴーシュが一緒に寝たとしても体の小さな妹は場所的な問題にならない。余裕を持って一緒に寝ることができるだろう。
しかし問題は別にある。そう、常識の問題だ。もう12になった妹と一緒に寝る兄って一体、とゴーシュは頭を抱えた。
「……一緒にねてくんなきゃ、おにーちゃん嫌いに」
「ごめん、シルベット。狭いだろうけど一緒に寝よう」
「ん。よろしい……」
しかし妹に嫌われるくらいなら常識をももろともしないのがゴーシュ・スエード23歳シスコンであった。
とは言え、妹の寝ている布団へ侵入するというのはどこか気恥ずかしいものがある。
「おにーちゃん、はやく」
「あ、う、うん」
おずおずと布団に入るゴーシュを見、シルベットは満足げな顔で笑った。シルベットにとっても、兄と一緒に寝るのはかなり久しぶりのことなのだ。
最後はいつだったのかぼんやりとしか思い出せないが、とにかく、今よりももっと小さな頃だったのだけは確かだ。
シルベットは完全に布団に入ったゴーシュにぎゅっと抱き着いた。突然のことに身を硬くするゴーシュを尻目に、シルベットは抱き着く力を強くする。
「シ、シルベット」
「おにーちゃん遠すぎ。寒いじゃない」
「それは……っ、……そう、かな」
反論しようとして、確かに敷いたばかりの布団では寒かろうと納得してしまう。シルベットはゴーシュよりも先に入っていたため、実はシルベットがいるあたりの布団は暖かくなってきているのだが、ゴーシュはそんなことには気付かず、いとも簡単に抵抗をやめた。
ただでさえこんな寒々しい所に寝るのだから、妹に必要以上に寒い思いはさせたくなかったのだ。
抱き着いままの妹の頭を優しく撫でる。
「おやすみ、シルベット」
「うん、おやすみ。……ありがとう、お兄ちゃん」
最後は聞こえないくらいに小さな声で呟き、シルベットはすぐに穏やかな寝息を立ててしまった。ゴーシュもそれを微笑ましく思いながら眠りについた。年明けまであと少し。



2010.01.01
2010.01.03 blog


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -