「ゴーシュが、リバースに入ってくれないんだが」
「……それを何故私に言うのでしょうか」
「他に愚痴聞いてくれる人がいない」
あまりにも悲しい告白をさらりと言うロレンスにシグナルは重く深いため息をついた。男のくせに長く伸ばしてある黒髪は恐ろしく彼に似合っているのだが、こんな時ばかりは鬱陶しくて仕方がない。
それを知ってか知らずか、ロレンスはぐいっと顔を近付け、はた迷惑なことに熱弁をお見舞いして下さったのだ。
「彼を初めて見たのはもう5年近く前になる」
「聞いていないのですが」
「私には彼が輝いて見えたよ。天使が地上に降り立ったのかとさえ思ったね。いや、彼は天使だと今でも思っているのだが」
「…………」
「こんなにも熱烈なアプローチをしているのに何故だ。何故テガミバチなどという職業に固執するのだ。リバースならば簡単な仕事に定休日、安定した収入を約束するというのに」
「熱烈なアプローチとはあれですか。黒い紙を入れただけの封筒を送り付けたり、夜中に後ろ付け回したり、それから……」
「な、何故知っている」
「……本当だったんですか……、本人が前に漏らしていらっしゃいましたよ」
やけに窶れた顔をしていたゴーシュを見かねて、数年前、世間話程度に何かあったのかと聞いてみた。いつもは自分から話し掛けたりしないので彼は少し驚いた様子を見せ、そして次の瞬間には疲れきった表情で、ぽつりぽつりと本当に疲れたように語ってくれた。
「そっ、それで! 彼は何と!」
ロレンスは「本人」という所に異常に反応し、目を輝かせた。
「いや、ただ『気味が悪い』と」
「…………!?」
「私がこの話を聞いたのは数年前ですが、その様子だともう5年近く続けているようですね。彼は今はもう全く気にしていないようですが」
「…………な、何故……」
「それは、黒い紙なんて送り付けられてリバースに入ろうなんて思う訳ないじゃないですか」
「ただの黒い紙じゃない! 火で炙れば『リバース』という文字が浮かび上がるんだぞ!」
「何でまたそんな回りくどいことを」
「ロマンチックだろう?」
それははたしてロマンチックなのだろうか。そして炙り出しだと気付く者はいるのだろうか。少なくとも自分ならそんな細工には気付かず、その手紙はごみ箱への直通コースを辿ることになるだろう。
それにしても、とシグナルはロレンスを見た。どうだ、と言わんばかりに胸を張っている。
炙り出しがロマンチックだったとして、この男は「リバース」とだけ浮かび上がる紙を見てリバースへ入りたがるとでも、それ以前に勧誘と理解してくれるとでも思っているのだろうか。
「……夜中に付け回したのは」
「彼が他の組織に勧誘されていないか監視だ。それに、夜中変質者に襲われないとも限らん」
変質者はお前だ。思わずそう考えてしまったシグナルに罪は無い。
「……はぁ」
「どうした、そんな重いため息をついて」
「察して下さい」
そう言うとロレンスはすぐに興味を失ったように橋へ続く階段へ足を向けた。ぶつぶつと何か呟きながら。
「さすがに5年も同じでは彼も慣れてしまうか。もうあの手は使えんな……、何か別の手を……」
もう、というか最初から使えないことに気付け。シグナルはそう思ったが、口には出さない。
もうこいつとは会話したくないというのが正直な気持ちだ。橋の向こうの門番もロレンスに捕まるのだろう。おそらく、ゴーシュ・スエードをリバースに勧誘するための新たな手段について、という話題で。
シグナルは双子の兄弟とゴーシュ・スエードへ向けて心の中で手を合わせた。





*******後書き***
私の中のロレンスがこんなキャラ。本物のロレンスはもっとかっこいいんだろうけど……。もっと登場しないかなロレンス。

2010.01.04


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