クリスマス(?)SS。クリスマスというか女帝様の聖誕祭か何かということで。


ふと、周りから妙にあたたかな視線を投げかけられていることに気が付いた。受付の女性から擦れ違う男性まで、とにかく、殆どの人からその視線と微笑ましいとでも言わんばかりの表情を頂くのだ。
なんでしょうね、と傍らのロダに問い掛けるが、こちらも分からないといったように「クォン」と小さく鳴いた。
周囲の不思議な対応に首を捻りながら、ゴーシュ・スエードは館長室への扉を叩き、中へと足を踏み入れた。
「失礼します、配達完了しました。それで、呼び出しの用件……は……」
一礼の後顔を上げ、ロイドとアリアを視界に入れた瞬間ゴーシュはびく、として固まった。ロダも警戒するように少し後ろに下がった。
「え、えー……と?」
「おかえり、ゴーシュ」
ふふふ、と今すぐにでも笑い出しそうに穏やかな表情をしているロイドが、そこにいたのだ。いつもの人を食ったような、何か腹に一物も二物も抱えていそうな胡散臭い笑顔ではなかい。やけに微笑ましげな、そう、ここに来るまでに向けられていたものと同種のものであった。
ロイドはおもむろに席を立ち、ゆっくりと近付いて来る。ゴーシュは思わず一、二歩後退った。
考えてもみて欲しい。異様な程に朗らかなロイドがにじり寄ってくるのだ。いくら礼儀正しいゴーシュといえど礼儀を忘れたくなるというものだ。この場に第三者がいたのなら「悲鳴を上げなかっただけでも褒めてあげたい」と言うところだろう。
「あの……」
「お疲れ様、ゴーシュ。今日の仕事はもう終わりよ」
「は」
背後からアリアにぽんと肩を叩かれ、間抜けな声を出してしまう。
「え、でも、確かまだ仕分けとか」
「仕事は終わり」
「はぁ……」
「今日は問答無用で家に直行。ほら、スクランブルダッシュで!」
ぐいぐいとアリアに背を押されるが、ゴーシュは何がなんだか分からず軽く抵抗する。いくら館長と副館長に認められたからといって納得できずに仕事を放棄する訳にはいかない。
「あら、お迎えが来たようね」
急なアリアの言葉に、え、と聞き返すと同時に、室内に風が起こった。

「あっ、ゴーシュ、ロダもここにいたんだっ! ニッチお願い!」
「まかせろ」

「うわ、わ、わぁ!?」
「じゃあ、館長、副館長、お疲れ様です!」
「さまです!」
「はいはい。楽しんでいらっしゃい」
「後で私もお邪魔するわね」
「はいっ! お待ちしてます!」
ラグの指示でニッチの髪によって問答無用に抱き留められたゴーシュとロダは、これまた問答無用に室外へ連れ去られていく。
「ちょっと」とか「仕事が」とか叫んでいたような気もしたが、聞こえないふり。
ラグは最後にもう一度二人に一礼して、ニッチを追うように部屋を飛び出して行った。



――その後、館長室にて。

「よかったのかい」
「何がでしょうか」
「……彼、仕事山のようにあったでしょ」
彼程の腕前ともなれば指名での仕事も入るようになってくる。加えて通常業務も勿論ある。次から次へと仕事が舞い込んでくるのだ。
「今日くらい、いいんじゃないでしょうか。女帝様も許して下さいますよ。――それに、あんなに楽しそうにされたら、ね」
それもそうだね、とロイドも頬を緩める。その脳裏には、前日に幸せそうな顔で館内を走り回っていた少年の姿が浮かんでいる。
「楽しいなら、それでいいのかな」
「私達からのプレゼントということにしておきましょう」

今日くらいは、仕事を忘れて楽しい一日を。

2009.12.25 blog


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