・本編とは別物主人公で生徒会役員
・ちょっとしたリハビリ
正直、いい加減疲れていた。
あっちで良い顔、こっちでも良い子。
そのせいあってか、生徒会役員という立場の私には雑用のような仕事が山のように押し付けられていた。
それも、オプションで、この学校の生徒会長は、驚くほど仕事をしない。
まるで自然の流れであるかのように私に仕事が回ってくるのだ。
しかしその割に、奴は眉目秀麗のとんでも美形で、やらせればなんだって出来てしまう文武両道のチート野郎だった。
まるで漫画のような人生だ。
そこでその会長と恋でも芽生えればまた私の世界は百八十度違っていただろうけど、残念ながら私にも奴にも想い人がいた。
そもそも、私と奴に恋など、考えただけで寒気がする。
どう足掻いても太陽と月のような立場の私と奴には、驚く事に共通点が存在していた。
「またあの子のこと追いかけ回して。そんなことしてる暇があるならとっとと仕事してくださいな」
「何を言う。何故我が奴を追いかけねばならんのだ。セイバーならまだしも。雑種の尺度で推し量るな」
「はあはあ。そりゃすみません」
「何、王に対して随分と無礼な謝罪であるな、雑種。かく言う貴様も奴の後ばかりを追い回しているではないか」
ん、と奴が指差した先の窓には、先程奴の追いかけ回していた女の子が、白衣を着た一人の白髪の教師の元へと駆け寄っていく姿があった。
そうだ。
奴と私の共通点とは、互いに望みの薄い相手に想いを抱いている、という、それはそれは滑稽な部分であった。
奴は奴で、その子の隣にいる女の子を好きだ好きだと喚いて頑なに認めようとはしないが、正直、気付いていないのは奴とその女の子自身くらいだろう。
私の眉が、思わずぴくりと反応する。
見抜かれたのか、奴がにやにやと厭らしい笑みを浮かべてきたので、誤魔化すように、山のような書類を奴の座っているテーブルに勢いよく叩きつけた。
奴は更に、楽しそうに笑う。
「貴様は隠したがる割に、分かりやすいのだ」
「あんたに言われたかないけど」
「我は自らの想いを隠すなどと器の小さいことはしない」
「気付こうとしないのだって、同じようなものじゃない」
「訳がわからん」
天然かこいつ。
はあ、と小さくため息を漏らしてから乱暴に書類を数枚鷲掴み、ホチキスでまとめ始めれば、窓から見える二人が、生物室へ入っていくところが見えた。
無償に、やるせなくなった。
私は確かに、あの人のことが好きだ。
因みに一目惚れなどではない。
何事も背負いすぎる良い子ぶりっこに手を差し伸べてくれた唯一の人であったから、だったからだ。
しかしそこで、その人だったから、ではなくて、唯一の人であったからか、と尋ねられてしまったら、私はきっと曖昧な返事をする。
所詮はそんな脆いものだった。
加えて、私にはあの女の子を嫉妬心から憎むような、そんな情けないことが出来るような義理はない。
そう、生徒会長やオディナくん絡みで私もあの女の子も、互いに面識があった。
その繋がりで、あの子はたまに、オディナくんや生徒会長に渡すついでに、私にまでお菓子やら何やらをくれるのだ。
女子力の高さに感心する以前に、私はあの子の上部だけでない根底的な人間の良さに感服していた。
要は私は、あの子もあの人のことも、どちらとも取ることは出来なかった。
どこまでも曖昧な奴であった。
「憎いなら壊せば良い。そちらの方が興が有り、中々に面白いものよ」
「そういうのは貴方の方がお似合いですよ」
「何を言う。それを眺め、遊興を見出だすことに意味があるのだ」
「ああ、あんたはそうだった。相変わらず良い趣味してるね」
「ふん。貴様に言われなくとも心得ておるわ」
「いや。褒めとらんよ別に。…そもそもにおいて私は、好きな人達が幸せになるならそれはそれで良いから」
机に頬杖をついてにやついていた生徒会長の表情が一変し、まるで化物でも見ているかのようだ。
好きなものと好きなもの。
二つあれば、二倍になるのではないか。
私の幸福は。
そういうものではないのだろうか。
現に私はそうだった。
「他人の幸福が、貴様の愉悦であると」
「他人では、ない。好きなものと、好きなものであるからこそ」
「仮令、己が望みが潰れても、か」
「そんなこと、どちらに転んでも同じ話じゃない」
異端を通り越して、そこまで来れば只の馬鹿だな。
生徒会長は面白味すらない、と嘆くように言ってから机に伏した。
相変わらず意味の分からない奴。
ホチキスで書類をまとめていた手を止めて、ゆっくりとカーテンを閉める。
最後にちらりと見えた生物室の中の二人の笑顔に、ゆっくりと目を細めた。
水面下のローダンセ
ローダンセ:変わらぬ思い