2話//放課後




ぼんやりと瞼に光が入り込んで来たのと引き換えに、痛みが全身を巡る


「……いっ、」
「起きたか」

だんだんと意識が明瞭になってゆく

窓から入り込む西日もだいぶ沈み、着々と夜に変わっていっているのが分かった


「大丈夫か?えーと、佐渡くん?」
「なんで、俺の…名前」
「ブレザーの内側に名前の刺繍入ってるだろ?脱がせた時に見たんだ。で、痛いところないか?」


白衣を着ているこの人は誰だろう…保健室の先生は確か女性だった気がする
よくよく見渡せばここは保健室でもないらしい


「…誰?」
「今さらかよ」

はははっ、と笑うその白衣の人を横目にぐるっと教室を眺めるとここが資料準備室だと分かった。と、なると…


「俺は教育実習で来てる音更先生です」
「おと、ふけ…せんせ?」

なるほど道理で知らない人のはずだ
よいしょと体を起こすと肘だの腰だの色々と痛んだがこのぐらいなら2、3日すれば治るかな

自ら先生と名乗ったこの人にさっさとお礼を言って帰ろうとソファから立ち上がる


「ん、もう帰るか?」
「あ、はい。おとふけせんせ…ありがとうございました」


ぺこりと頭を下げて手近にあったカバンを背負うとまたずきり、と傷が痛んだ


「おい佐渡」
「はい?」
「お前チャリ通?」
「ううん…じゃなかった、いえ、電車です」

ついポロっと出た言葉を誤魔化すように笑いながら頭を左右に振る

先生にタメ口はよくないよな、タメは!
と慌てて敬語に戻したら何が良いのか、そりゃあよかった!と目の前の男はニヒルに笑う


「俺もちょーーど良く今日のお仕事は終わったんだ。何かの縁でこうなった訳だし、今日は先生と帰ろうか」
「……へ?」


帰る?この人と?思考が付いて行かず、頭の上に沢山のクエスチョンマークを並べた所で彼の動きは止まらない
白衣を脱いでフワリと机の上に畳んでおくと、鞄を片手に立ち上がった

パチリと目が合えば、またさっきの笑みだ


「…と、言うのは冗談で佐渡の担任に頼まれたのさ、駅まででいいから送ってくれって」
「いや、でも俺平気だか…です、し…!」
「俺、半人前だけど教師だから言う事聞いてもらおうかな?」

そういいながらサッと手首を軽く掴まれる。と、さっきとは違うズキンと刺すような痛みが手首に走った

「いたっ、」
「ふむ…やっぱり捻ってるみたいだな。平気じゃない佐渡くんを一人で帰らせる訳には行かないから一緒に帰ろうな」

ふわりと優しい仕草ですぐに手を離してくれたが、気が付けば最早俺に一人で帰るという選択肢は無かった


「…おとふけせんせ」
「せ、ん、せ、い。」
「……半人前だから せんせ でいいじゃん?」
「なんだそりゃ、佐渡お前俺の苗字の漢字分かってないだろ」
「ぎくぅ!」
「棒読みかよ!」

しかもお前、敬語使うの面倒くさくなっただろ!なんて俺の頭をポンポン叩きながら笑うこの先生が悪い人ではないのは何となく分かってきたぞ…!


「さて、下校時刻も迫ってるし帰るぞ」
「はーい、おとふけせんせ!」

にっと笑顔を張り付けて、俺は少し前を駆け出す


「また階段から落ちるぞー!」
「…落ちないよ!」


振り返りつつ、先生を呼ぶ
小走りで近づいて来た半人前教師とくっだらない話しをしながら俺は学校を後にした





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