ほのかに香るのは

(お題:紅茶 香り 両片想い)



「お前、よくそのクソ甘い液体飲めるな」
「素直にミルクティーって言え?」

放課後を告げるチャイムが鳴ると、みんな慌ただしく教室から去って行く。
部活に行ったり、バイトに行ったり、もちろん用もなくただダラダラと教室に残るやつらもいる、そのうちの1人だ。

親友の顔を見ればなんてもん飲んでんだって顔に書いてある、だからミルクティーだってば。あまくて美味しい飲み物だが俺は甘党こいつは甘いの苦手と残念な事に若干味覚が違う
親友がよく飲むのと言ったらコーヒーのブラックだ


「…飲む?」
「いらね」
「こんなにおいしいのにもったいない!お前人生の半分損してるよ?」
「んなことねえよ!お前こそ糖尿で死ぬぞ!」

俺はもう一口飲んでペットボトルの蓋を閉めた

「今日はバイト?」
「んーん、やめた」
「は!?」

あんまりあっさりしてるから聞き逃す所だった
俺が勢い良く立ち上がったもんだからガタリと派手に椅子が音を立てる
親友はめんどくせえって顔してとりあえず帰るか?なんて言いながらカバンを肩に担いだ
俺も慌てて教科書をカバンに詰め込んでその後を追う



「辞めたって、なんで…」
「バイトの後輩ちゃんに告られちゃってさー、断ったらすげえチネチネ嫌がらせされて、オーナーにも他の人にも迷惑だったから俺が辞めたの。」

まったくモテる男は辛いねー!なんて笑うけど俺はそれどころじゃない
…ということは、だ…今は誰とも付き合って無いんだ

今、今しかない。今なら振られても俺が傷つくだけでこの不毛な恋は終わるんだ


ごくりと喉がなる

親友を盗み見ればいつもと変わらない掴みにくい表情をしている



「な、なあ」

好きだ

「ん?」

好きだ、お前が

「…あの、さ…」
「うん?」


「…俺がいるんだから落ち込むなって!お前ならまたすぐに可愛い恋人できるよ!」
「ははっ!だよな!優しいやつだな!」
「おう!」

ぐっと力を入れて握った拳を気づかれないようにそっと開いた
突き刺さった爪と気持ちとか、色んなものがぐるぐる混ざって無性になきじゃくりたくなるのをぐっと堪える

これでよかったんだ
そう、自分に言い聞かせて俺たちはお互いの家にたどり着く


「じゃ、また明日!」
「宿題忘れんなよー」
「わーかってるって!じゃなー!」



バタンと扉が閉まる


「優しいやつって、お前の事だ…気付け、馬鹿」


ズルズルと力が抜けてその場にしゃがみ込む。
あそこであの甘党野郎が俺に告白してくれたら、なんて少女漫画みたいな甘い考えが頭の片隅をよぎる

そんな事もなく現実はそうそう甘くない


「馬鹿は、俺だな…。」



青春の恋は当分
酸味の方が強めのようだ。









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