星降る夜に
(お題:夜 黒猫 片思い)
この時間になるといつも一匹の黒猫が俺の部屋の窓を叩く
トントントンと軽やかな音が聞こえ、カラリと窓を開くとお行儀良く窓ぎわに座っている
別に飼っているわけではないが俺が餌をくれる人だとちゃんとコイツは認識しているのだろう、いつものごとく100均で買った皿にキャットフードを少量入れて差し出せばおいしそうにカリカリと食べた
「お前は良い子だな」
艶の黒猫を撫でればふわり、つるりとしていて誰かに飼われているのかとも思うが、こんな夜更けにふらふら出歩いているから多分放浪猫なんだと思う
不意に夜風が吹き込んだ
寒さに少し身を縮こまらせて俺は食べ終わった皿を下げる
「満足か?また来いな」
決して逃げ出さないコイツの頭を優しく撫でて腰あたりをポンポンとたたけば、機嫌良さそうに「にゃあ」と一言だけ鳴いてするりと居なくなった。
何気無くその姿を追おうと下を見れば見覚えのある顔と目が合う
「お?丁度良い!」
「なにやってんの?お前」
近くに住む幼馴染だ
少しドキリとしたがそれを悟られないように切り返す
「今日さ、オリオン座流星群なんだって!」
「へえ」
夜空を見上げれば確かになんだか何時もより星が輝いて見える
「行こうぜ!裏山上がればもっと綺麗に見える!」
「今から?」
「大丈夫、大丈夫!俺がついてるし」
「そういうんじゃなくてだな…」
にーっ!と笑うこの笑みの時に俺に拒否権は無い、随分と昔からいつもこうだ。
俺の本当の気持ち、微塵も知らないで
「…分かった、冷えるから珈琲持って行こう」
「よっしゃ!」
本当に嬉しそうに笑うその笑顔が俺の目の前をチカチカと眩しくして、流星群も霞んでしまうんじゃないだろうか
「すぐ下行くから待ってて」
「おう!」
俺は静かに窓を閉じて厚手の上着とカバンを手に取り部屋を慌ただしく飛び出す
キラキラと儚く燃えて光り瞬く俺の中の流星群達よどうか今はまだ
流れ星となって俺の口から溢れ出て行きませんように。
→ 戻る
.