プロローグ



俺の初恋は呆気なく終わりを告げる

一目惚れした好きな人がいた。
図書室でいつも静かに読書している姿が途方もなく綺麗で、空間の一部であるんじゃないかって疑ってしまうくらい整った横顔のその人
風が吹けば少し長めの髪がさらりと揺れて俺はこれが初恋なんだなと実感したのだった

…ただ、相手は一つ上の男の先輩。

声をかけたくてもなんと切り出していいか分からず、とにかく毎日図書室に通いつめた
つい一週間前、俺はその先輩が読んでいたハードカバーの本をやっと借りる事に成功
そんな時、思わぬ出来事が起きた


「…あの、毎日図書室に来てますよね?…一年生?」
「はいっ!」
「僕なんかでも顔、覚えてしまったよ」
「!」
「この本すごく綺麗な言葉選びで読んでいて気持ちがいいから、時間かけて読んであげて下さいね」
「もっ、もちろんです!」

ふわりと目が細められて笑っているのだと分かった時にはもう色々とやばかった!
一方通行で知っている人だったのが、なんとなんと顔見知りになれてしまった
その時のハードカバーの一冊は家でも読めるように本屋で買ったぐらいだ。

そしてさっき、今日も貸出カウンターの中で静かに読書に耽る先輩に、本の感想を口実にお話しするべくきっちり期限いっぱいまで借りて読んだ本を片手に図書室へと向った俺だったのだが…

いつもならもう図書室は開いている時間なのに扉にはクローズの文字
ドアのカーテンもしまっていて中の様子も伺えない


「今日返さないとペナルティで二週間本借りれなくなっちゃうんだよなー」

教務室の先生に理由言って、返すだけ返してしまおうかな
なんて考え始めた頃にガタリと何処からか音がした

「…?」

なんだ今の音、奥の理科室か…?

シンと静まり返る廊下


「…っ!」

今度は微かな声


「やっぱり図書室…?」

聞き間違いじゃなければ、閉まっているはずの図書室から声が聞こえた気もする…え、まさかおばけ…?
怖いのと好奇心とのせめぎ合いがあったが、あっさり俺の中の好奇心が勝り扉にゆっくり手を掛ける
横に扉を開けば、動くはずないと思っていた扉は簡単に動いた
かたり、と静かに開いてカーテンの隙間から中を覗く


「あっ…!」
「橘、声出したらバレるぞ?」
「ばか…っ、園山もう図書室開けるからっ…離れて」
「ちぇー。」

そういって園山と呼ばれた男が先輩とキスをした


ゾワリと何かが体を駆け巡る
震える足に力を入れて俺は図書室から走り出していた

なんだ!何を見た!?なんで!なんで!!


気がつくと屋上近くまで一気に駆け上っていたらしい
最後の一段を盛大に踏み外した俺は激しい音を立てて階段の踊り場に転がり落ちる

クラクラ、ズキズキと痛みがするがこれは外が痛いのか中が痛いのかもう何も分からない。



「…はは、あははっ……うっ、」



俺の初恋は呆気なく終わりを告げたのだった。







「おい、君…平気か?」
「!?」

転がったままの俺を見下ろしてくる誰か。
逆光と涙で霞んではっきり顔が見えない

「ケガは…ああ、こっち来い。今誰もいないから」

体格が俺らとは違うからきっと先生だろう
ぼんやりと眺めていたらぐいと起こされる


「立てるか」
「……むり、です」
「…ん」

了解の意の返事か帰って来たと思ったら、誰かの顔がすぐ近くまで来る
次の瞬間にはひょいと体が宙に浮いていた
すぐに所謂お姫様抱っこされてる事に気が付いたがもう色々と限界だった俺はここで意識を手離してしまった。





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