気が付けばいつも彼女の姿を目で追っていた

渡り廊下から、教室の窓から、たまに廊下ですれ違えれば柄にも無く心踊り、ついレンズの内からその優しい笑顔を見つめてしまう

君にこんなにも好意を持ってしまうなんて、想定外だ





「すみません、マネージャー募集してるって聞いたんですけど…」
「え、あ、ああどうぞ入って」
「失礼します」


カチャンと部室のドアを丁寧に閉めた君は、思ってもみない形で俺の近くに来た

と言っても、1年と2年のレギュラーメンバーじゃない部員たちの、スケジュールなどを調整してくれるマネージャーが必要になったらしく、大石が手塚と相談してこのたび青学テニス部にマネージャーを入れる事が決まった


今日は手塚と大石は掃除だろう、まだ部室に来ていない2人を立って待たせる訳にもいかず、そこに座って待っててくれと促して自分は何事もないようにノートを開く

…やはり動揺しているようだな、ノートが上下逆だ



「あの、乾先輩…」
「どうした?」
「私、スケジュール調整などって言われてたので応募したんですが…テニスって授業でやった程度しか分からなくて…大丈夫ですか?」


すこし恥ずかしそうに申し訳なくはにかむ君

困ったな。名前を呼ばれてこんなに幸せになった事なんて無かったから、自分のデータだとどういった反応をすれば正しいのか分からない


「だ、大丈夫。マネージャーに全てを任せるわけではないし、顧問の竜崎先生もきっと君に丁寧に教えてくれるよ」
「よかった…あ、すみません。お邪魔してしまいましたか?」
「いや、平気だ。」


必要ないのにノートをぺらぺらと捲る
やはり緊張しているのか、彼女は顔を上げたり下げたり髪を整えたりドアの方を見たり俺を見たり…

ぱっちりと目と目が合った



「あ!乾先輩はデータテニスがお得意なんですよね!」
「そうだね」
「もしかして今見てるノートにみんなのデータがいっぱい入っているんですか?」
「そうだ、これ以外にも今まで書き溜めてきたデータは山のようにある」
「すごい…!」


本当に感心してくれているのか、大きな瞳をぱちぱちと瞬かせる
なぜだろうこんなたわいもない会話だけど、もっとずっとしていたい。手塚も大石も来なければいいなんて思ってしまう



「私、運動するのも見るのも好きで、テニスはそんなにうまくないんですけど…スパンってボールが相手のコートに決まるのを見ると、よし!って見てる自分も楽しくなっちゃって。だから、もっと近くで見れたら、もっと凄く楽しいんだろうなって思うんです!」
「コートベンチから見る試合は勿論、臨場感抜群だから、きっと君が座ったら大変な事になるだろうね」
「興奮して座っていられないかもしれないです!」


ふふふと笑う君の笑顔はずっと追い続けていたあの笑顔で、こんなに近くで、俺だけに見せてくれるなんてなんという優越感

この子がマネージャーになればいいのに




ガチャリと部室のドアが開く
さあ、やっと君の面接が始まるようだ


「すまない、待たせたようだな」
「よ、よろしくお願いします」


勢いよく立ち上がって深々とお辞儀する彼女
大丈夫だ、君は俺なんかにも物怖じせずに話しかけてくれたし、とても賢く正しい人だって俺は知っている

そんなに脅してやるなよ手塚と、念を飛ばしつつ俺はラケットを取って部室を出て行こうとドアに手をかけた



「乾先輩!」
「ん?」
「お話ししてくださって、ありがとうございました!練習、頑張って下さい!」
「ありがとう、君も…頑張れ」



彼女にさっきの緊張の色は見えない

彼女がマネージャーになる確率は…86%といったところだろう、明日からあの笑顔に会えると思うだけで俺はまだまだ強くなれそうだ。



「お!乾〜にゃんか楽しそうじゃん」
「そう見えるか?」
「なになに、なんかあったの!」
「ふふ……秘密」



おわり。

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