すき






今日こそ言おう、そうだ…言ってしまおう!
そう自分を鼓舞して生徒会室の方へ歩き出す
生徒会室として使っている教室は今いる教室とは別の棟なので、乱暴に掴んだ鞄を肩にかけて階段を下る
生徒会室のある棟へと続く渡り廊下を渡ればその校舎の端に見覚えのある背中が見えた、彼だ



「て、」


呼ぼうとしてピタリと止まる言葉
代わりにここまで聞こえてきたのは私ではない女の子の声



「手塚君の、ことが…! 好きです!」
「………」



こ…告白されている、これは確実に告白されている!

人の告白シーンを目撃してしまうなんて初めての事なのでどうしていいか分からず、まさにこれを右往左往と言うのではといった挙動をしてから、とにかく立ち止まっていてはバレるかもしれないと、早歩きで渡り廊下を渡った直ぐにある図書室へと逃げ込んだ
今ほど図書委員長をやってて良かったと思った瞬間は他にはあるまい

ガチャンと鍵を開けて流れるように中へ入る
誰もいない図書室の机に雪崩れ込んだ




「…どうしよう」


あと少し私の決心が早かったら、ここに居たのはもしかすると今告白している彼女だったかもしれない

でもかわりに、私のようやく決まった決心が揺らいだ




「……どうしよう、明日で…いっか……」
「何が明日なんだ」
「ふぎょぅあっ!?!!??」
「すごい叫び声だな、秋宮」


バッと条件反射で振り返れば、いつもと変わらない冷静な顔をした手塚くんが立っていた


「て、手塚くん!!?」
「俺だが、何をそんなに驚いているんだ」
「だって、あ…いや……」


さっきその角で告白されてたじゃないですか!なんて言ったら、告白さているのを目撃してしまった事を自分から白状する事になる。それはまずい、いや…怖い



「まさか、開けたばっかりの図書室に人が来るとは思わなくて…」
「そうか、これを返しに来た」
「あ、うんじゃあこっちに…」


こちらの動揺を悟られないように、机から落ちた鞄を拾い上げカウンターの中へと入る
引き出しを開けて3年1組のカードの束から手塚くんのものを取り出す



「手馴れたものだな」
「そうかな?」
「ああ」


こんな穏やかな会話ができるようになったのはつい最近のこと
彼に憧れを持ったのは2年生に上がってから。彼と同じクラスになって勉強もスポーツもできる人が本当にこの世に実在してることに驚いて、図書室から見えるテニスコートでテニス素人の私でも分かるくらいに彼は強いという事、そしてその姿がとても綺麗に見えた時に鮮烈に手塚国光という人に憧れを抱き、気が付けば私の心は彼で占領されていた



「秋宮?」
「あ、ごめん…えーっと、はい返却ありがとうございます」
「また新刊が入ったら利用させてもらう」
「うん、是非」
「来月が楽しみだ」


こんなにふわりと笑う彼の顔を知っている人はどれくらいいるのだろう

好きだと気付いてしまってからは、眉目秀麗な彼だ、後輩からも同年代の女子からも好意を寄せられている事ぐらい私でも知っていたし、同時にこんなどこにでもいる普通の私では想いを伝えたところで丁重に御断りされる事くらい火を見るよりも明らかだった

だから、言わないでいようと思っていたのだけれど…



「手塚くん、今日は部活無いの?」
「ああ、木曜は竜崎先生がいない事が多いから基本的に休みなんだ」
「そうだったんだ…でもラケットバッグ?」
「関東大会も近い、自主練はしていい事になってるからな」
「なるほど」



自意識過剰、気のせいかも知れないのだけど…3年に上がってから手塚くんが図書室をよく利用してくれて、クラスでも自然に声をかけてくれる…気がする
だから、違うのならそれでいい。でも少しでもそんな態度をされたら…誰だって淡い期待をもってしまうではないか
そしてやっと私も決意したのだが、結局こうやって話せているだけでも幸せではないか?と自問自答して口を噤んでしまう、我ながら情けない


「じゃあこれから手塚くんも自主練?」
「そうだな、こんな時間だから少しだけだが」
「そっか、がんばってね」
「ああ」


もう今日はどっちみち揺らいだ決心だ、明日また新たに挑みに行けばいいと開き直って彼を見送ったつもりだったのだが……なぜか図書室から出て行こうとしない、というよりこのカウンターの前から動かない。
本も返してもらったし、私何かやり残してることあったっけ?

一応、何かやり残した事があったら困るので机をぐるっと見渡してから、顔を上げる
ばちっと手塚くんと目があうと、急にさっきの告白を思い出してキリと胸が痛んだ

本当に心臓って痛むんだななんて頭の隅でぼんやり思いつつ、その整った顔を見つめる



「…手塚くん?」
「……すまない」
「え?」


ぐいと手を
引かれてカウンター越しに肩を抱かれる


「て、づ…」
「そんな顔をさせるつもりはなかったんだ」


私の肩口にぐり、と押し付けられる彼の頭
どんな表情かは分からない


「…さっきの、見ていたんだろう?」
「!」
「別に隠さなくていい、あれだけ大声で言われたからな」


ははと微かに笑った暖かい息が首にかかった



「俺は、自分の気持ちに確信がずっと持てなかった。いや…持てていても他の事にかこつけて気付いてないふりをしていたんだ」
「えっと…」
「でも、今日こそ気持ちを伝えようと思っていたんだ。そしたら……出鼻をくじかれた」
「ぷっ、」


ぎゅ、と抱かれた肩に力が入って離れた
だいぶ暮れた夕日に照らされて赤い髪が綺麗に揺れる



「好きだ、秋宮」
「…う、ん。私も手塚くんが好き」
「俺だけを見ていてくれ、これからも」
「…はい!」



いつもとは違う至高の笑顔を見せて笑った彼の顔があまりに綺麗で、思わず涙がこぼれ落ちた



おわり。





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