初恋



 ジョットとGと等しく大切な友人だと思うには、限界があった。幼い頃から共に過ごしている彼らは気にしていないのだろうか。いいや、今や気になって仕方ない筈だ。人は、性差という呪いに気付いてしまった時から、決して同じではいられない。等しくなどない。競い合うようにして大人になろうとしても、次第に一歩後ろを歩くようになった彼女は、その時にはすっかり呪いを受け止めた女性だった。
 結局のところ、コザァートもジョットも男性だった。ジョットもGも、そしてエルザのことも、同じ友人として大切にしようと思えば思うほど、違和感を覚える。呪いを受け止めた少年時代。友情を凌ぐほどの興味と情熱的な想いは、恋と結びつけるほかなかった。他に適した言葉があったところで、コザァートは頑なに恋だと言っただろう。恋はやがて愛になるのだと、彼は信じていた。


 しかし、コザァートはあるとき気が付いた。時の流れと共に子供が大人になる必然とは違って、必ずしも恋が愛に変わるとは限らない。その上、愛とは複雑で様々で、恋が愛なりえることも確かにあれば、突如として彼の目の前に現れたりもする。その愛とは、コザァートにとってのファミリーだった。世界中を流浪する中で出会った仲間たちは、男であろうと女であろうと、コザァートに特別な感情をもたらした。自分に着いて行くという直向きな彼らに、コザァートは等しく愛を覚えた。生まれ故郷にいる家族にも、別の道を行く親友にも、離れ離れになってようやく同じだけの愛を覚えた。

 愛とは何かを知ってから、コザァートはまだ恋している彼女の存在が気がかりだった。初恋を友愛と履き違えていたのなら、自分は一生、たったひとつの愛を知ることはないだろうと思っていた。
 だが偶然を装って数年ぶりに彼女に会いに行ってみると、思い出より美しくなったエルザは確かにコザァートの胸を躍らせた。伸びた髪、踵の高い靴、血の色をした頬と唇、歯を見せない笑い方。この感情は間違いなく、恋だったのだ。まっすぐ恋をしていた少女に、コザァート少年もたしかに恋をしていた。


 少女の恋は、愛になりえたのだろうか。少年の想いは、初めから愛だったのだろうか。コザァートは物思いに耽る。

 ジョットに寄り添うエルザは、彼を愛していたし、彼に愛されていた。言葉を交わす以上に視線を交わす二人は、互いの愛を知り尽くしているように見えた。
 コザァートは親友に苦しみを強いた。コザァートとそのファミリーが犠牲となることは、それを認めざるをえないことは、ジョットにとって最も辛い選択だったに違いない。コザァートはジョットが自分に与えてくれた友愛を一生忘れまいと、その血に誓った。その時も、ジョットの一歩後ろでエルザは見守っていた。シモンとボンゴレの架け橋になると言う彼女は、他人への愛に満ちていた。



「大空と大地を結ぶ、君は虹の架け橋だ」



 そうしてコザァートはエルザの手を引いた。暗い森の中で、ジョットとコザァートの間に差す木漏れ日が彼女を照らした。
 美しくぼやけた思い出では、いつも光の中を歩いていた。君に日影は似合わない。



 孤島で暮らすようになったコザァートの下に、ボンゴレを経由しないルートで、エルザが虹の守護者に就任する知らせが届いた。ファミリーとともに、日影の道を選んだコザァートは時折その光が恋しくなる。常に、コザァートのすぐそばには影がある。主を待ち続けて、箱の中で眠る8つ目のシモンリングは『影』。彼女に『影』を託さなかったこと。このまま海に葬って、永遠に彼女の知らないものにしてしまうこと。それこそ、コザァートが彼女に示せる輝かしい友愛なのだ。


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