花言葉は吉報



ミルフィオーレが所有する日本支部、メローネ基地は、その日、開設以来初めての非常事態に陥っていた。
ボンゴレ10代目ファミリー風の守護者である焔袈埜が、単身で乗り込んで来たのだ。ボンゴレリングがなくても、かの雲の守護者・雲雀恭弥と並ぶ実力を持つ焔袈埜は次々とミルフィオーレの精鋭部隊をなぎ倒していった。噂に聞く強さは本物であったが、負傷兵の話を聞けば、焔袈埜は自らの負傷を気にもとめず、異常なまでに炎を灯し続けて戦っている。
連絡回線で各部隊が連絡を取り合ったところ、ある人物が対応を任された。焔袈埜が仲間を連れてきていないことを入念に確認したのち、彼女は部下を使って焔袈埜を誘導する。

それまでいくつもの匣兵器を一網打尽にして戦っていた焔袈埜は、広く開けた空間にたどり着いた。柱が何本も立ち並ぶ、巨大な空の倉庫のようだ。敵の炎は感じないその場所は、静まり返っていた。ここに来るまでにいくつのリングを壊して来ただろうか。袈埜の炎にリングが耐えられなくなり砕けては替え、砕けては替えながら彼女は炎を灯し続けていた。

沢田綱吉が死んだ。その知らせを受けて袈埜が最愛のボスの元へ丸一日かけて駆けつけた時には、沢田綱吉は棺に収まって彼女を待っていた。それから袈埜はひどい虚無感にすっぽり覆われて、疲労も眠気も感じない。死ぬ気の炎が自分の命をすり減らしていく感覚だけが、袈埜に沢田綱吉をそばに感じさせてくれる。

袈埜は静かな空間で、ようやく炎の出力を弱めた。瞬きをすると、沢田綱吉の笑顔が脳裏に浮かんだ。それも束の間。忍ぶようすもなく背後から足音を立てて近づいて来る者に、袈埜はとっさに十分な距離をとっては風の炎でシールドをうみだす。

「ははは、あなたも白蘭サマに狙われてるのに自分から来ちゃったの?」

聞き覚えのある声。しかし見慣れない姿。袈埜は思わず声を漏らした。
ボンゴレにとって忌々しいホワイトスペルの制服に身を包み、歩み寄って来る沢田葵の姿は陽炎で歪んで見える。濃く丁寧に引かれた赤いルージュ、葵は歯を見せずに口角を吊り上げた。

「葵ッ!」

袈埜は、沢田綱吉の死を嘆く暇もなく、ボンゴレ側はまだ誰も見つけられなかったメローネ基地の位置を割り当てて、沢田葵に会いにきたのだ。
沢田綱吉は、袈埜にとってただ一人の最愛のボスであり、沢田葵は、大切な友達だった。袈埜の幸せは、袈埜の手のひらから離れてひとりでに壊れ果てた。沢田葵が沢田綱吉を殺した。単純であるのに、不条理な現実を袈埜もまた受け入れられないでいる。

「どうしてあなたはボンゴレを裏切り……どうしてボスを殺したの?!」
「それを聞きたくてここに?」

初めて葵から向けられる冷笑に、しかし袈埜は動揺することもない。葵が持つ答えを、固唾を飲んで待つ。

「私が求めるのは、この世界の正しい未来だけ」

その時彼女は、沢田葵であって沢田葵ではなかった。
袈埜の肩に触れるか触れないかのところを、銃弾が掠めた。沢田葵が銃を構えるよりも早く、撃たれることを察知した袈埜は避け切ったが、受け身を取りながら愕然としていた。顔を上げた時には沢田葵は一瞬で姿をくらましていた。ミルフィオーレファミリーの沢田葵からの宣戦布告である。

「ここで今は袈埜、あなたと私の二人だけ。どっちが正しいか白黒つけよう」

姿は見えないが、沢田葵の声は近くから聞こえた。次の瞬間から匣兵器が袈埜を襲う。沢田葵の虹属性の炎を纏った無数の蝶が、袈埜めがけて飛んでくる。袈埜は襲い掛かられるまえに、風の炎をもってして大群を一瞬で消し去った。沢田葵がボンゴレにいた頃から持っていた匣だ。虹色に輝くあの蝶は毒を持つ。沢田葵は本気で袈埜を止めにかかっている。
散った蝶の鱗粉が完全に晴れると、沢田葵が柱の陰から姿を現して銃口を向ける。引き金が引かれたのと、袈埜が防御の炎を構えたのはほぼ同時。その一発を避けきることができた袈埜だったが、炎を保ったまま柱に身を隠して間も無く、激しい銃撃音と共に、炎で包まれた袈埜の周りに蜂の巣ができるほどの猛撃が始まった。
 葵が一人であることが、疑わしいほどに銃撃が止まない。袈埜は神経を研ぎ澄ました。しかし確かに、今この広い空間にいるのは葵と袈埜のみ。
いくら袈埜であっても炎のガス欠はある。このままでは葵の弾切れが先か、袈埜の炎が途絶えるのが先かの耐久戦になってしまう。集中砲火を避けるために気配をごまかし、柱を飛び出した。袈埜には、沢田葵を攻撃することなどできなかった。たとえ彼女が袈埜の愛する沢田綱吉を殺した張本人であっても、沢田綱吉にとってはかけがえのない家族であったことを無視できない。中学、高校、そしてボンゴレを継承してから、沢田葵と共に過ごした日々を、袈埜は諦めきれない。

「戦いながら、考え事?」

 袈埜は息を呑んだ。銃撃を止め、余裕な素振りで歩み寄ろうとする葵の姿がある。袈埜は風を起こし、沢田葵を風で突き放そうとするも風が彼女の身体を貫くとき、沢田葵は揺らいで消えた。霧の幻覚ではない、虹の炎による反射が作り出した幻。守護者の中でも、沢田葵の虹の炎は炎圧が弱く、彼女には広範囲に高純度の炎を張りめぐらせることなど、ボンゴレリングなしには至難の技であるはずだった。銃撃は反射による拡散、正面に見えた幻は――。気付いたときにはもう、後ろから歩み寄っていた沢田葵が、袈埜の首筋にナイフを添えていた。

「裏切りの覚悟が、私の炎を強くする」
「ッ」
「綱吉もいないこの世界で、あなたは何のために炎を灯すの?」

背後を取られた袈埜は、沢田葵の腕の隙間から身を抜き、いなし、あっという間に今度は袈埜が葵の背後を取る。もう終わりにしよう。卒倒させようと袈埜は手刀を構えるも、袈埜の腕の中で沢田葵は肩の骨を外し、脱した。次の瞬間、袈埜と葵が同時にホルスターから引き抜いた銃、その二つが同時に火を噴く。袈埜が頬のかすり傷に気付いた時、沢田葵は左肩をかばうようにしてよろけた。それでも一瞬にして袈埜と距離を取る。その身のこなし方は、今亡き最強のヒットマン・リボーンとよく似ている。袈埜もよく知り尽くしていた。

「……なんだ、はは、死ぬ気弾って、こんなもの、冗談じゃない……」

袈埜が撃ったのは、せめてもの死ぬ気弾だった。沢田葵は額に虹の炎を灯し、呆れたように笑った。彼女の瞳は、死ぬ気の沢田綱吉と同じ夕焼け色の瞳に変わっている。袈埜は、亡きボスの笑う顔を思い出す。あの暖かな瞳を思い出す。訃報を受けて駆けつけた時にはもう閉ざされていた瞳に、もう一度出会うことができた。袈埜の包む虚無感が、夜明けのように去っていく。

「私はボスが守りたかったものを守る! 葵、あなたのことも――」

しかし沢田葵は、それを許してくれなかった。細工もせずに袈埜に駆け寄ると、袈埜のホルスターから短剣を引き抜き、沢田葵は迷わず自らの肩を突き刺した。

「――え」

 ひるむ袈埜をよそに、沢田葵はすぐに引き抜いたその短剣を白い制服で綺麗に拭い、丁寧な手つきで袈埜に返す。そしてジャケットの内側にある小型マイクに、わざとらしく荒い息を吐くのだった。

「ボンゴレ風の守護者、焔袈埜は西へ逃亡、至急救護と焔の確保を!!」

 マイクに向かって大声を張り上げたのち、沢田葵はそれを踏み潰して壊した。一連の様子を見ていることしかできなかった袈埜は、「えっと……」と、思わず素の声でつぶやく。そうして沢田葵は袈埜に向き合い、笑顔を向けた。袈埜のよく知る、沢田葵がそこにいる。

「あなたが変わってしまったら、目を覚ました綱吉が悲しむ。あなたを変えてしまったのが私なら、綱吉は後悔する」

沢田葵は呑気に袈埜に背を向け、立ち去ろうとする。袈埜の制止の声には振り返らず、挨拶のように右手をひらひらとさせては、その手で人が通れるほどの通気口を指差した。

「黙っててよ」

虹は常に、大空と共にある。ボンゴレの架け橋は光を失わずに袈埜たちのそばにいた。

「ボスは、生きてる……」

大きく目を開き、袈埜の瞳には再び光が宿る。


*=*=*=*


沢田葵は帰る家を無くした。イタリアに戻れば裏切り者としてボンゴレの刺客に狙われかねず、日本にいたところでボンゴレ基地には戻れない。育ちの家である並盛町の沢田家は沢田綱吉と共に高校卒業と同時に出たが、沢田綱吉を殺した今、奈々に合わせる顔などなかった。それゆえ、沢田葵はメローネ基地に充てがわれた個室で暮らす。ミルフィオーレに加入して半月、沢田綱吉殺害から2日。昨晩、基地に侵入してきた袈埜と戦闘し、負傷したということで半日の休暇をとった。
ベッドとランプ、デスク、最低限のものだけが揃えられたその個室で、沢田葵は持ち込んだPCを立ち上げる。沢田葵はボンゴレボスを殺し、一部隊を任せられていながらも、焔袈埜討伐に失敗したこともあってミルフィオーレの中でも信用度が低い。とはいえ、個室にまで監視カメラや盗聴器はつけられることなく、この部屋の中でのみ沢田葵のプライバシーが守られていた。

「噂はかねがね聞いていたけれど、殺人鬼とは住む世界が違うからお目にかかることはないと思ってた」

沢田葵は、PCの画面に映る男に向かって声をかけた。しかし彼女の表情はすぐれない。一方、画面に映る男は、まだ幼さの残るその顔に朗らかな笑みを浮かべる。

「グイド・グレコ。殺人鬼が脱獄したってニュースが飛び込んできた時は、イタリア中が震えてたわ。死刑制度を認めるべきだって議論まで湧き上がってた」

15人を殺害し、懲役刑を受けていた17歳の囚人グイド・グレコ。沢田葵は画面を操作し、逮捕されて間もない頃の彼の写真も画面に写した。当時の写真に残る狂気的な表情は無く、通話画面に映る彼は笑っているだけであれば地味な好青年のように見える。それがまた一層不気味なのだ。

「まさか脱獄してまでミルフィオーレに入りたかったのかしら」

グレコ・グレコは沢田葵と同じホワイトスペルの制服に身を包んでいた。所属を確認しようにも、グレコ・グレコという名の構成員はミルフィオーレに存在していなかった。沢田葵は疑念を抱えながらも、何も答えない相手に言葉を続けた。

「こっちも盗聴器は仕掛けられてないから安心して……で、クロームの名義を使って私に連絡してきた訳は?」

黒曜の連中と行方をくらませていた霧の守護者の片割れ、クローム髑髏。不在着信があったことに沢田葵は戸惑いと同時に安堵を覚えていたが、リダイヤルをかけた先にはグイド・グレコ、全くの別人がいた。しかし、沢田葵は概ね予測ができている。クロームの不在着信に気付いた時から、沢田葵は悪寒を感じていた。生暖かい風が首元をすり抜けていくように、彼の気配を感じる。ミルフィオーレにあっても、ボンゴレの血統である沢田葵の血は超直感が働いた。

『……フ、クフフフ、まあ、視察といったところですよ。君が沢田綱吉を殺したと聞いて、興味を持ったものですから』
「だと思った……骸サン。あなたの噂も聞いているわ。グロ・キシニアの猛撃にはさすがに参ったのかしら」

グイド・グレコの中身は、もう一人の霧の守護者である六道骸。彼は、半年前にミルフィオーレ6弔花のグロ・キシニアと戦闘して負けたと、ボンゴレに伝わっていた。10年間復讐者の牢獄に幽閉されたままの彼は、クロームやグイド・グレコのような器を介して現れる。クロームが行方不明になり、骸が負けたという噂を聞いてから半年間、音沙汰は一切なかった。

『まさか! あの戦いは収穫の方が多かった』
「一体何を企んでいるのやら」
『あなたの方こそ下手な芝居を討って出ているようですね』
「綱吉からの指令よ。しばらくミルフィオーレにいるわ。第18ジャッジョーロ隊隊長だけど、あなたは?」
『大躍進ですねえ。僕は第6ムゲット隊のレオナルド・リッピの名を拝借したところです』

そうして骸はカメラをずらし、血だまりができている自分の足元を映した。小太りの老人が、ホワイトスペルの制服を引き裂かれている。

「目的は違えどボンゴレのために随分動いてくれてるみたいね、ありがとう」
『感謝される筋合いはありません。よくもまあ、沢田綱吉のようなセリフを吐けるものだ』
「綱吉は人殺しに感謝しないわ。私にとっては結果が全てなだけ」

沢田葵は骸に向かって微笑みかけた。沢田葵は骸を味方と認識したことこそないが、敵だと思うこともない。監視の目を掻い潜ることができるこのひと時で、敵ではない相手との会話で気が緩む。しかし、骸の外側であるグイド・グレコの表情は怪訝に歪んだ。

『顔色が良くない。君の器に見合わないことをしているせいだ』
「もう少しの辛抱よ。これまでに比べたら順調で、ここが最後の希望だから……」

沢田葵は眠気に襲われ、意識が遠のくのを感じながら答えた。明日は、進行するボンゴレ狩りの報告会がある。上がってくる名前があるなら、知っている顔が浮かぶだろう。その後には、第3アフェランドラ部隊長のγと親睦を深めるための会食の席が設けられている。血の気の多い男の接待は苦手……そんなことに頭を回し、眠りにつきそうになる。

『……沢田葵。君は誰だ』

グレコ・グレコの鋭い声が、沢田葵の眠気を劈いた。何を言っているのだろうか。沢田葵はその前に自分が何を言ったのか思い出せないまま、声を低くして答えた。

「ミルフィオーレファミリー第18ジャッジョーロ部隊長の沢田葵よ」


*=*=*=*


日本におけるボンゴレ狩りの成果を報告する定例会議は終わり、沢田葵は喉元まで出かかっている溜息を堪えて会議室を後にした。
ボンゴレ10代目ファミリーの守護者は、そう簡単にはつかまらない。しかし、日本人の多い10代目守護者達の家族や中学高校の関係者が、カタギであろうと日本でのボンゴレ狩りの対象になっている。
沢田葵自身、唯一の肉親である母・沢田吉乃を殺された。山本武も父親を殺されている。沢田綱吉の両親は出国した記録があるも、現時点で行方不明。ボンゴレファミリーの門外顧問である沢田家光は、要注意人物としてミルフィオーレイタリア本部が血眼になって探している。笹川了平の両親と妹である笹川京子の所在は不明。出国した形跡はない。獄寺隼人の父親は、マフィアのボスとしてミルフィオーレと戦い、壊滅状態に陥っている。沢田綱吉ら10代目ファミリーとは中学時代から交友関係がある一般人、三浦ハルとその家族までボンゴレ狩りの対象となっているものの、成果は上がっていない。前回の定例会議からボンゴレ狩りの進歩がないことに、沢田葵は誰にも悟られないように安堵していた。
正午からはγとの会食を控えている。気乗りしない彼女は、まるで精神安定剤のように自動販売機で缶コーヒーを2本買い求めようとした。二本目のコーヒーを買おうと、ボタンを押すその時、沢田葵よりも先に背後から伸びてきた手が断りもなくペットボトルの水を押す。状況を飲み込めないまま沢田葵が振り返ると、そこには先ほどまで会議に同席していた第12カメリア部隊長のアイリス・ヘプバーンがしてやったり顔でほくそ笑んでいる。

「水を飲まないからそんなに肌が荒れるんだよ」
「飲みたいならくれてやるわよ」
「まぁ会議じゃ大人しいっていうのに随分気が強いんだねえ」
「それでなにか、用事でも?」

 沢田葵はアイリスを睨む。もともと、メローネ基地に配属されたときから何かとアイリスの視線は感じていた。心当たりはある。アイリスが率いる死茎隊こそ、沢田葵にとって母の仇。アイリスもそれを分かっていて、煽ってきているのだろう。

「母親をアタイらに殺されておいて、復讐しようとは思わないのかい?」
「なめられたものね。私が今ここで親の仇を殺さないとでも?」

 アイリスは油断していた。沢田葵はミルフィオーレの敵であるのか、味方であるのか、誰もが勘ぐっている。そんな彼らとは違って、沢田葵は決して迷わない。沢田葵の身も、心も、そして血も、ボンゴレのもの。――アイリスに銃口を向けることに、ためらいもない。
 
「母が死んでとても悲しかったけれど、私の心に残ったのは、母が死んだ事実だけ」

 沢田葵は、前に進むしかなかった。一度、復讐の環に堕ちてしまえば脱することなどできない。はなからセーフティレバーをかけたままの銃をしまい、これ以上危害を与えるつもりはないと両手を上げた。鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしてたアイリスも、騒ぎ立てる様子はない。上層部へ訴えられたらひとたまりもなかった。

「……だからアタイらはアンタを信用できないのさ。何を考えているかわかりやしない、ボンゴレの"アイリス"」
「心配いらないわ、私をそう呼んでたのは私を花にたとえるバカな男達だけ」

 そうして沢田葵は缶コーヒーもアイリスに押し付ける。しかしアイリスの視線は缶コーヒーではなく、沢田葵の指にあるリングへと向いた。

「カヴィリェーラ製のリングだなんて、アンタいいご身分だねえ」
「ああ……、虹のリングを製造する職人もメーカーも限られてるから」

 創業130年、王国時代からイタリアの工業を支えて来たカヴィリェーラ社。貴婦人向けの手袋の量産から始まったカヴィリェーラ社は、既存権力に依存せず、時代の流れに合わせてこれまでに4度ほど業種を変え、今ではアクセサリーの製造業を営んでいる。足飾りを意味する名前でありながら、彼らがアクセサリー業界に進出したのはここ数年で初めてのことだった。彼らが作るリングはアパレル業界にはまだ浸透していない。実のところ、カヴィリェーラ社が製造するアクセサリーの8割がリングであり、その8割のうちさらに6割がマフィア界に流れている。カヴィリェーラ社はマフィアが戦闘用に使うリングで儲かっていた。高価ではあるが、Aランク品と並ぶ強度を持つBランクのリングを量産できる貴重な企業である。

「そう、カヴィリェーラ製の雲リングもあるわ。無礼のお詫び、受け取って」
「付け込もうってのかい?」
「ここでの信用は少しずつ築いていくしかないわ。今はもう同じファミリー、同じホワイトスペルでしょう」

 雲のリングをアイリスに渡し、その時沢田葵は初めてミルフィオーレの人間に笑顔を向けた。友達や、味方を作りにきたわけではない。いつ何時でも沢田葵は、架け橋である。
 コーヒーを買いに来たはずが目的は何も達成していない。しかし沢田葵は次の行動に打って出ようとしていた。傍受されないプライベート回線につなぐため、自室に駆け込み、手早く国際電話につないだ。

「チャオ、イリデよ。すぐにメロイ代表に繋いで。……戦いにそなえてリングを特注したい、ボンゴレ日本支部に送って欲しいの」

 電話の向こうでメロイ氏の深いため息が聞こえた。ボンゴレを裏切った説教を、沢田葵は聞き飽きている。


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