エピローグ

ジョットが渡日する日がやってくる。荷造りも終え、立つ鳥跡を濁さずと雨月が言うように、ボンゴレファミリーを創始した男はひそやかに祖国を離れようとしていた。しかし、事は数日前から動いていた。

@エルザ視点
ボンゴレを継承したU世の守護者となったエルザは、昼の船でジョットを送り出すその朝も仕事に従事していた。前期から繰り越した案件を片付けて、何か心の中にしこりを抱えながら、落ち着かない気持ちで波止場へと向かう。エルザとジョットは別れを惜しみ、軽く抱きしめ合って、別れのキスをした。お互い寂しさを覚えなかったのは、当分会えなくなることの実感がないからだ。ジョットを船内へと送る。そこでエルザは、先月のクーデターの際に熱心なU世の支持者だった男を見つける。共に見送りに来ていた初代ファミリーも傍にいた。雨月とジョットは船に乗り込み。デッキから姿を見せていた。周りには、それぞれに別れを惜しむ民間人もいる。騒々しい現実の中、エルザだけが恐ろしくゆっくりと流れるように感じる世界でその男を目で追った。懐に手を入れる男。エルザの直感が警鐘を鳴らす。出航の汽笛すらかき消すほどの耳鳴りがした。人をかき分け、男めがけて正面から飛びかかった。空を打つような角度で銃を向ける男の腕を掴み、無理やりに銃口を自らの肩に押し付けた。銃声。騒然とする波止場。人で溢れかえった中で、何が起きたのか、誰もがすぐには気付かなかった。弾丸を食らったエルザは、それでも痛みを振り切って男を取り押さえる。真っ先に駆けつけたアラウディとGが男を拘束する。現場を取り囲むように掃けていく人。その異様さを、ジョットは船の上から呆然と眺めていた。エルザは最愛の男に背を向けながら、その場に崩れていった。

「エルザ!!」

(――、一番安いスーツを着た彼は、まるでただの好青年。Gに短く切ってもらった髪。最小限の荷物。私を呼ぶ声は変わらないのに、私のボスはボンゴレプリーモではなくなってしまった。私は、フランス製の男性用スーツを仕立て直したスーツドレス。最初にあなたがくれたもの。)


A雨月始点
「おや、イタリアから、あなた宛ての手紙も混ざっている」「刃物でも仕込まれているんじゃないか?」
「はははっ、命がけでお主を守った彼女が、此度は殺そうとするでござるか?」

(封を切ると便箋から甘い香りが立った。彼女からの手紙を待ち続けて2カ月、この香を懐かしく感じるには十分すぎるほどの時間だった。)

日本で雨月の邸宅に身を寄せるジョットに手紙が届く。女性らしい筆跡で、既に懐かしく思える名前があった。エルザ=イリデ。正真正銘、彼女のサインが記されている。あの港での事件で、エルザは肩を負傷しただけで済んだと記す。連絡が遅れたのは新体制の忙しさが落ち着かなかったからだと言う。あなたはイタリアに戻ってきてはいけないとまで強い言葉で書いてあった。ボンゴレファミリーがマフィアへと本格的に移り行く中で、隠居した初代ボスの居所を探している勢力が多いという。ジョットは、出航を狙われたあの事件のすぐ後、最初に船が止まった港からイタリアに引き返そうとしたところを雨月に留められていた。「エルザの意志を無下にはならん」、と。

雨月自身はジョットが渡日してから1カ月後に再びイタリアを訪れていた。そこでエルザと直接会い、話を聞く。「あの男のその後? ……組織の人間だったからね、それなりの処遇になったと聞いたわ。身柄は門外顧問を通してU世に直接引き渡されたそうよ。あのクーデターの後、ボンゴレは裏切りに関して堅い掟を作った。早速それが行使された第一例になったといってもいい。図らずも掟の恐ろしさの見せつけになったわ、U世ファミリーにとっては、好都合と言える。私もそう思ってしまった。これからのボンゴレがマフィアの道を選んだのだから、そうでもしないと血の気の多い人たちを取り仕切れない」
雨月は、かつて自分と肩を並べてボンゴレを守っていた女性の変わりように物悲しい顔をする。エルザは確かに、自分たちが深く踏み入ることのなかったマフィアの闇の中に身を置いていた。「きっと何代先も、そのずっと未来も、ドン・ボンゴレ一人の意志でどんな姿にだってなれてしまう。今のボンゴレは、外側から見ているよりずっと恐ろしいものよ」とはいえかつての愛嬌もそのままのエルザはころりと表情を変えて、その後は仕事の話を一切しなかった。それ以上は語れないとでも匂わすように。

Bランポウ視点
ランポウはサンソーネ=メロイの娘、アロンザと結婚の日を迎える。祝賀パーティーにエルザのことも呼んでいた。サンソーネや、親族側としてベルナルドも出席している。アダルベルトはアロンザが招待したが、ここ数年ですっかり年老いたせいか姿を見せず、結婚を祝う電報だけが届いた。エルザがアロンザへ電報を手渡す。今もなおボンゴレ直属という形で存続するカヴィリェーラを担うベルナルドと、カヴィリェーラの決定権を握るエルザ。ボンゴレがマフィアと言われるその前に組織を離れたランポウからは、これからマフィア界へと突き進んでいく二人が遠い世界の人のように見えた。そして、アロンザをしっかり守るのよとエルザに喝をいれられ、隣で笑う新妻を愛おしんだ。

Cアラウディ視点
ある日チエデフの本部は騒がしかった。その騒がしさを鬱陶しく思いながらも、アラウディ自身もまた落ち着かない。そんな中で警備を振り切りながら慌てた様子で駆け込んでくる男がいた。かつての同僚であり、今は故郷に戻った嵐の男。Gだった。名乗りさえすれば問題なく門を通れるというのに、それすらも忘れてGは誰よりも焦りをみせていた。エルザが倒れたと、連絡を聞きつけたのだった。容態を問い詰めるG。U世ファミリー発足からわずか半年だったが、エルザの現場復帰には時間がかかるだろうというアラウディ。ここ数カ月、エルザは人との接触を極力さけていたようだった。エルザがいる医務室を前に、顔をしかめるG。病気は深刻なのか、という方向で話が進められそうになったところで、アラウディは溜息をつく。「あの女は病気程度じゃ倒れないだろう」
そう、そもそもなぜ大騒ぎになっているかといえば、虹の守護者であるエルザも、結局一人の女性であったというだけに過ぎない。Gがしびれを切らして医務室のドアをたたいた。穏やかな声で返事が返ってくる。気を失って倒れたエルザも回復したらしい。飛び入るG、冷静なアラウディ、ベッドで上半身だけを起こして微笑むエルザ。彼女は、初代ボスの子を身ごもっていた。力が抜けて崩れこむG。幼馴染である二人はめでたい雰囲気で会話を進めるが、アラウディは一人、この先のことを考える。門外顧問として、次期ボンゴレボスを定めなくてはならなくなった時のことについてだった。T世とU世が血縁者であったことから、既に初代ボスの血統は重視されていた。U世が子を設けるよりも早く、初代ボスの子が産まれる。むろん、正統主義の男達は初代ボスの実子をV世候補にまつりあげるだろう。だが、日本に渡ったあの男と、この母親は、それを望まないだろう。和やかな二人を傍らに、アラウディは考えにふける。「この子の事考えてくれてるのね」とエルザ。アラウディは素直に「まあね」と答え、部下に買ってこさせた花を彼女の腹の上に置いた。

Dデイモン視点
トマゾ2代目とU世の殺し合いが続く中、虹の守護者であるエルザをここの所見かけない。チエデフとの接触を報告したのが最後だった。U世に問い詰めると、半年間は本部を離れてカヴィリェーラとメロイの事業にボンゴレの代表として関与していくという。
U世自身は次々に争いを起こしては勝利を勝ち取り、組織内でも支持者を増やしていった。ボンゴレの拡大の中、デイモンはだた前を見続ける。時を止めた懐中時計を開き、蓋裏で微笑む最愛の女性に口づけを落とす。T世の誓いの言葉は、写真で覆い隠した。

Eナックル視点
エルザの息子の洗礼式の後のことだった。父親が不在なのはナックルも承知。エルザとジョットの間の子の代父はGとなった。いずれは日本にわたるのか?と問うナックル。曖昧に言葉を濁したエルザ。昼下がりの穏やかな教会。何も知らない赤ん坊の白さ。ここで生まれた小さな秘密を、彼らは守っていこうと決めた。

Fコザァート視点
ジョットの引退から既に数年が経っていた。孤島でファミリーと共に暮らすコザァートは海を眺めていた。浜辺に一隻の船が到着する。降りてきたのは、ファミリーの誰もが待ち望んだエルザだった。彼女は約束通り、月に3度はシモンファミリーのために大量の救援物資を送りつづけ、自身も月に1度は顔をだしていた。しかも今日は、3歳になった息子も一緒だった。私はデイモンに隠し事が多すぎるの、と寂しそうに笑うエルザ。シモンファミリーとの接触も、独自のルートでデイモンに気付かれることなくやっている。ジョットとの間に設けた子供のことも隠し続けていた。コザァートは改めてエルザに深々と頭を下げる。そこでエルザは、コザァートに大事な話があるのだと場所を変える。エルザは、かつてシモンファミリーの壊滅をもくろんだデイモンの死を告げる。デイモンの早すぎる死は誰もが予想していなかったことだ。そして彼の葬儀は行われなかったことと、彼の部下たちが遺体に怪しげな術をかけていたことを明らかにする。デイモンの遺品の中には、ヘルリングという曰くつきの品物もあった。エルザとコザァートは、これで終わりではないことを悟っていた。
そしてコザァートは、シモンリングは自分が死んだら一緒に土葬すると笑って言う。ジョットの血である『罪』も、彫金師タルボに渡すことで、ボンゴレリングの力を抑止することまで考えていた。エルザもそれに賛同する。

GG視点
エルザが故郷に帰ってきていた。かつてのボンゴレの隠れ家で、孤児院を開いたG。幼馴染二人の息子は、やんちゃ盛りの年上に突かれると、すぐに泣きだす。小さい頃のジョットに似てきた、この町にジョットが帰ってきたみたいだと笑う。一度はボンゴレをあそこまで大きくした幼馴染と、今もその組織に身を置き続けるもう一人の幼馴染。夕焼け色のこの町で遊んでいた幼い頃は、あまりにも遠い日々のことになっていた。しかしこの町の夕焼けは特別だった。マフィアボンゴレの中核を担うエルザすら、この町で家庭を守るふつうの女性のように見せる。その姿があまりにも自然で、どこかに相棒がいるのではないかと、森を見回した。背後にそびえる旧隠れ家の二階の窓からは、カーテンだけがはためいている。かつてジョットが書斎として使っていた部屋だった。夕日が姿を隠す。エルザは、渡日の決意をGに伝えた。


Hジョット視点(回想)
第1章の冒頭までさかのぼる。エルザが帰ってくると知るジョットとG。
「どんな顔して会えばいいんだ」彼女を待っていた時間が長ければ長いほど、想いは強くなる。

Next・・・→

top

「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -