背筋を伸ばして歩くんだ。この生を誇れるように。

◇ナポリ・カヴィリエーラ編・前半(1年目・春)


2. Caviriera d'Italy


アラウディとサンソーネの交渉により、エルザをベルナルドの元に連れていくことになる。誰もがベルナルドこそあのカヴィリェーラを指揮する男だとは知らずに、ジョット・アラウディ・エルザは未稼働の手袋工場を訪れた。待ち構えていたベルナルドの目の前で、しかしアラウディはエルザを拘束する。身柄の引き渡しは建前。彼の本当の目的はボンゴレがエルザを人質とし、身柄の引き渡しに条件を付けることだった。状況を理解できずに動揺するエルザ。ベルナルドが交渉を拒否し、カヴィリェーラの男達ががアラウディに切りかかるも、アラウディは汗ひとつ流さずそれをいなした。エルザを含む一般市民を巻き込みたくないジョットと、わずかな犠牲を払ってでも社会秩序を優先とするアラウディ。それぞれが掲げる正義は交わることなく、だがしかし、今のボンゴレにはこのほかに状況を打破する策がなかった。
初めから、アラウディは知っていたのである。アラウディはチェラーゾファミリーからエルザを救ったのではない。チェラーゾファミリーはメロイ家にとってのエルザの利用価値を見出し、メロイ家に脅しをかけようとしていたのだ。アラウディはそれを阻止した。そして、初めからベルナルド・メロイの妹として利用するために、エルザをナポリまで連れてきたのだという。

事実上アラウディに拘束されたことで、スパイ容疑者、あるいは人質となったエルザ。ウィラードというアラウディの部下も合流する。そしてウィラードの口から明らかになる、エルザと兄・ベルナルドとメロイ家の繋がり。それはエルザ本人すら知らなかったことである。アラウディが交換条件に身柄の引き渡しを要請した「メロイ家が匿っている国際指名手配犯」について。全ては18年前、一人の女性が殺されたときから、狂い始めていたのだろう。

ボンゴレとカヴィリェーラの対立は収まらない。そんな中でカヴィリェーラに属する男達が嘆いていた。家族の幸せが一番だと嘆いていた。ジョットは迷わず、敵対するカヴィリェーラの家族を助けに戦った。ボンゴレ襲い掛かってくる元チェラーゾファミリーの男たち。それを傍で見ていたエルザにも、男が一人、飛びかかってくる。いち早く気付いたジョット、G。しかし間に合う距離でなかった。しまった、と気を取られていたその時、エルザは自ら男の腕を懐へと引き込み、背負い投げたのであった。相手はエルザとほぼ同じ背丈の細身の男。とはいえ、唖然とする彼らをよそに、エルザは澄ました顔でいた。

それでもベルナルドは周囲の反対を押し切りながら、ボンゴレとの衝突を進めた。ボンゴレは本部からの援軍を待つものの、北はシエナ、ローマで新たにボンゴレとメロイ家勢力がぶつかる。一方、南ではサンソーネが治める領地で、メロイ家に付く農民と反抗勢力、ボンゴレ勢力が衝突していた。ボンゴレナポリ支部の孤立は進んでいた。しかし、同時にカヴィリェーラも多くの損害を出し、辟易しはじめていた。


ついに血まみれのベルナルドが単身でボンゴレの基地に乗り込んでくる。無抵抗のジョットを一発殴り、傍に居るエルザにしがみついた。「忘れないでくれ。お前だけが、俺のたった一人の家族だ」そう言ってベルナルドは意識を失う。たった一人の兄が身も心もボロボロにしてまで成し遂げたかったことを、エルザはこれから知ることになる。


ベルナルドは生まれたときから父親がいなかった。亡き母・カテリーナに女手一つで育てられた。それで不満はなかった彼に、突如として幸福が舞い込んだのは彼が10歳の時。母親が再婚し、ベルナルドにはたくましい父と、まっさらな妹ができた。家がにぎやかになったことをベルナルドは心から喜んだ。しかし、家族4人の暮らしは長くは続かなかった。継父がある日、戦争に赴くこととなった。ベルナルドとカテリーナ、そして赤子のエルザ、3人のつつましやかな暮らしが始まる。母・カテリーナは美しいひとだった。継父が二度と帰らないことに気付いた頃には、別の男が家を訪れるようになっていた。図体が大きく、田舎町に似合わないスーツを着たその男を、ベルナルドはつねに警戒していた。母・カテリーナが死んだ日、その男もそこに居た。ベルナルドとエルザが駆けつけたときには、その男が、血に濡れた銃を手に持っていた。助けてと声を絞り出す母を、誰も救えなかった。恐怖したベルナルドはまだ小さなエルザを抱きかかえ、森の奥へと逃げていく。日が暮れてから家に戻ると、母の遺体は仰向けに手を組んで安らかな顔をしていた。ただ、継父が残していった銃と、母がずっと大切にしていた宝石が、彼らの家から消えてなくなった。

ベルナルドに残されたのは、たった一人の妹だった。妹を育てるために働き、あの日の衝撃・憎しみを考えないようにつねに体を動かした。そんなベルナルドが、母親の仇だと思って憎み続けていた男と再会したのは9年前。アダルベルト・メロイと名乗るその男こそが、亡き母の初婚の相手であり、自身の父親であるという。怒りをあらわにするベルナルドを、アダルベルトはあの日の真実を語たることでいさめた。母は、強盗により殺されたのだった。ナポリを中心に北イタリアまで企業を展開している富豪の実父・アダルベルトに誘われ、ベルナルドは彼の元で働くことになる。それもすべては、妹の幸せのためだった。妹が幼馴染と離れ離れになることも、たった一人の家族である自分と離れることよりは苦でないだろうと信じていた。
だが、アダルベルトはベルナルドとエルザを引き裂いた。アダルベルトは、エルザは家族ではないと突き放したのだった。

それ以降、アダルベルト後継者として育てられたベルナルド。メロイ家の一人息子として裕福な暮らしと、やりがいのある事業を任される彼は、側から見れば恵まれた男だった。だが、家に帰っても最愛の妹がいない。それだけで彼は貧しかった。アダルベルトを父とは思えないまま年月が経つ。そんなある日、邸宅に地下牢があり、そこに一人の男が捕らえられていることをしった。その男が母の仇であることもしった。そして、アダルベルトは彼を警察に渡さずに『私刑』し続けている。憔悴しきったその男も、ベルナルド自身も、すべてアダルベルトの手のひらの上で転がされ続けている駒に過ぎなかった。
時を同じくして、アダルベルトがボンゴレファミリーを潰そうとしていることを知ったベルナルドは、実働部隊のカヴィリエーラを掌握することで、アダルベルトの言いなりにはならない道を選ぶ。彼は、メロイ家を乗っ取るためにこの機会を利用しようとしていたのだ。


ボンゴレにとって、そしてエルザとベルナルドにとって、本当の敵はアダルベルトであった。アダルベルトの真の目的は誰も知らない。今はもうメロイ家全体が、ボンゴレ壊滅にむけて大きく動きはじめた。アダルベルト一人の意志で、すべてが決まる。

アダルベルトとジョットの交渉が始まる。アダルベルトは自分の思想をすべてジョットに打ち明けた。マフィアによる新時代が訪れることへ警鐘を鳴らし、そしてジョットへ銃口を向けた。「今ここで、その芽は摘まなければならない」その時、エルザが飛び入ってきた。牽制の言葉を上げ、懐からGのコレクションの銃を取り出してアダルベルトに向ける。ジョットはエルザに撃たせまいと、とっさに彼女の手首を叩き拳銃を落とす。だがそれで終わりではなかった。エルザは緩んだ片手でもう一丁拳銃を取り出し、アダルベルトに向けた。アダルベルトは嘲笑しエルザめがけて銃を放つ。だがそのとき、ジョットが死ぬ気の炎を灯し、弾丸を手で受け止めた。
真っ赤に燃え上がる、人智を超えた炎。エルザは、ジョットのその不思議な力に言葉をなくす。
ベルナルドを呼べと吠えるアダルベルト。しかし、彼は来なかった。

ベルナルドの目的は、アダルベルトの失脚。アダルベルトは南部勢力の北上を阻止するために、戦力となるカヴィリェーラにすべてを注ぎ込んだ。他事業が憔悴していく中、それでもカヴィリエーラを肥大化させていった。そして、頃合いを見計らったかのように、ベルナルドが声を上げた。戦いに疲れた仲間たちの前で、拳を空へ突き上げた。「今をもってカヴィリェーラはメロイ家より独立する!」
それは、ナポリで末永く繁栄していくだろうと誰もが予測していたメロイ家改革の瞬間であり、メロイ家の力を一手に引き受けたカヴィリェーラ再誕の瞬間であった。




カヴィリエーラの独立により、ボンゴレとメロイ家の対決が収束する。ボンゴレに身柄を拘束されたアダルベルト。数日後、18年前の殺人事件についての真相をエルザに語る。アダルベルトはエルザに一丁のマスケット銃を渡した。それはエルザの両親の形見だった。
かつ、アダルベルトはエルザが元の暮らしに戻るのならメロイ家のすべてを持って援助するともいう。これまで一切の会話がなされてこなかった二人の間に、ようやく和解の時が訪れた。
また、カヴィリエーラは独立した上でボンゴレに降伏。アダルベルトが引退するメロイ家では、ボンゴレにコネクションの提供を認める。また、アラウディは自分の手柄として、これまでメロイ家が匿ってきたとされる国際指名手配犯の身柄を捕らえた。身柄を引き渡す時に、エルザは一瞬男の顔を見た。男もエルザを見た。男を責め立てようと思う気持ちもなかった。エルザにとって18年前の事件は、あまりにも遠すぎる日の事になっていた。ただ大きくなっていた黒い渦――宛所のない怒りが彼女の中で消えていく。

「子供たちを、助けて」それがカテリーナの最後の言葉だった。アダルベルトは、エルザとベルナルドをずっと守り続けてきたつもりでいた。時に、カテリーナが持っていた『虹のかけら』という宝石を狙う者たちから。時に、エルザの父親である男の罪によってもたらされる危険から。残された兄妹の知らないところで、アダルベルトはカテリーナとの約束を守り続けていた。その真相を知った兄妹は、怒りと口惜しさと、複雑な思いを胸にアダルベルトの背中を見送った。

アダルベルトの身柄について、ジョット・G・アラウディ・ナックルらが審議を進める。表社会の警察に渡すにも、しかし彼の罪を立証することはできない。とはいえ裏社会における脅威として野放しにすることもできなかった。ボンゴレはあくまで自警組織であるという信念のもと、始末することなどできない。そこにエルザが割って入り、アダルベルトをエルザの実家に住まわせ、ボンゴレの監視下に置くことを提案するのだった。ジョットらはそれを認めた。

彼らがナポリで過ごした時間はわずか2週間と少し。しかし、戻ってきた故郷はひどく懐かしく思える。エルザとアダルベルトはお互いに会話することなく、アダルベルトが生活するために家の中を整理していた。その様子を見守りながら、ジョットには最後まで悩みがあった。らしくねえなとGにまで笑われた。ジョットは今日まで、気に入った者をとにかくボンゴレに引き入れてきた。多くはなくとも、ボンゴレには女の仲間もいた。だが、幼馴染をボンゴレに、とは言い出せなかったのである。家の片付けを終えて、この町に戻ってきた時と同じ大きな鞄を抱えて、エルザは快活な笑顔を彼らに向けた。

「これからはあなたの傍にいたいわ」

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