この生き方を選んだのは、間違いなく私だった。

◇運命の日編 (3年目・春)

 時は遡り、25年前。イタリアが統一される動きの裏では「虹の代理戦争」なるものが行われていた。統一運動の中で失われていった国で最強の兵士と言われた男が、新たなアルコバレーノの一人に選ばれる。その男は結婚したばかりで、最愛の妻と、妻の連れ子だった息子と、妻との間の新しい命と背を向け、呪いを一人で抱えていく道を選ぶ。最後に、代理戦争の中で手に入れた至宝と、己の銃を妻に託して、姿を消した。


 1880年代が訪れた。エルザが加入してから早や2年が経つボンゴレファミリーは、さらにその勢力を国外へと伸ばし、確実に拡大していた。
 エルザは性別をハンデとせずに守護者補佐の地位まで昇りつめ、常に守護者達の傍にいるようになっていた。ジョットとの恋人関係も良好である。エルザ・イリデの名はマフィア達の間でも知られるようになっていた。
 ボンゴレプリーモの恋人。守護者補佐としての渉外活動。人の上に立つようになってからというもの、肥大化していくボンゴレの潜む脅威に彼女は気付きつつあった。他勢力と争うことが増えたボンゴレで、エルザ自身も交渉や戦闘の経験を重ねていく。
 末端では勢力拡大のための抗争が相次いでいた。ジョットはボンゴレの規模縮小を図る。エルザやG、守護者達もジョットに賛同する。ボンゴレは武器や土地を資金に変え、自警団としての形を取り戻しつつあった。
 ――しかし、警備が手薄になった本部でDとエレナが書斎にいたその時、敵襲に見舞われる。爆撃の被害でエレナは即死。婚約者を守り切れなかったことを嘆くD。守護者たちはすぐに犯人を捕らえようと動く。アラウディは「何らかの目的で集められた7人の集団」がジョットと守護者の命を狙っていると突き止める。

 一見、共通点のないようにみえるその7人こそが次なるアルコバレーノ。運命の日を迎えようとは知らない、次時代最強の男達であった。

 エレナの葬儀を終え、守護者達の前で気丈に振る舞うDの強い意志により、ボンゴレは再び警備を強める。武力装備も必然的に以前より強まっていった。ボンゴレにとっても要人だったエレナを亡くし、さらにはボスの命までもが狙われているとなれば誰も異議は唱えなかった。その動きは、やがてボンゴレを自警団からマフィアへと確立させていくことになる。

 なおも7人について調査を続けるアラウディにエルザも協力する。そして二人は、25年前にも共通点のない7人が集まっていたケースに辿りつく。アラウディの予測では今回は7人が協力して暗躍しているが、以前は7人がそれぞれ争いあっていた。それこそが虹の代理戦争。その男達の名前の中には、ロドリーゴ・イリデという男がいた。エルザはそこで初めて、己のルーツを知ることになる。
 エルザはひとり、故郷に戻ってアダルベルトと2年ぶりに再会する。真っ先に父親について知りたいと言ったエルザに、アダルベルトはもの悲し気にゆっくりと口を開いた。彼はこの2年ですっかり老け込んでいた。そしてアダルベルトが語る。徴兵されたと言われてきたエルザの父親こそ、『ロドリーゴ・イリデ』、この時代のアルコバレーノの一人である、と。

「この世界の秩序は、7人の人柱によって保たれている。神ではない、人間が。私は熱心なキリシタンだったが、この事実を知ってから信仰を捨てた」
「この世界の秩序?」
「この世界すべてだ」
「その人柱こそ、アルコバレーノ。おしゃぶりを持つ7人の赤ん坊だ」
「……そういう新興宗教にでもあるの?」
「宗教ではない。彼らは生まれながらに赤ん坊なのではない。人として生まれ育ち、尋常ではない強さを手に入れたことから、この世界を守るために選ばれ、赤子の姿でその勤めを果たしていく」
「その中の一人が私の父……」
「だが人柱も人間だ。体の限界が数十年で訪れる。その度に次なる7人が集められ、世代交代をしていく。ボンゴレプリーモが選ばれし7人に狙われている?それがアルコバレーノ候補の仕業だとまで突き止めたのか?……ならばお前たちの敵は、次の時代最強の7人だ。ボンゴレプリーモよりも強い人間だ。殺せるが、殺されるかもしれない」
「そんな」
「エルザ、このことは決して人に話してはならない。バミューダには気を付けろ」
「誰よバミューダって……」
「さあな。私にもわからない。イリデに代わって、カテリーナに代わって、私はこの呪いにお前を踏み込まさせないように、秘密を守ってきた。お前が母の形見だと思っている宝石……虹のかけらは、アルコバレーノが持つこの世界の秩序を保つ石を割ってできたときに零れ落ちたものらしい。イリデは、自分も赤ん坊になったあとに、赤ん坊のお前に会いに来て、それをこの家に置いていった。何故あいつがそれを手にしたのかまでは語らなかったそうだが、気を付けろ、虹のかけらを狙う者は多く居る。カテリーナを殺した男もふくめ、な」


 だが、ボンゴレ側は最後まで7人の男に直接接触することすらできなかった。ある時を境に、ジョットを狙う7人の動きはぴたりと収まったのだ。それは新たなアルコバレーノが運命の日を迎えたことを意味していた。それに気付いたのは、アルコバレーノの真実を知るエルザのみ。

 夜、ジョットとエルザの元にどこからともなく声が聞こえてくる。しかし人の姿はない。バミューダ・フォン・ヴェッケンシュタインと名乗る声に、エルザは思わず声を上げてしまう。
「チェッカーフェイスも早まったね。今回の7人は任務をやり遂げることができなかったのに。本来、この時代最強の7人は、ドン・ボンゴレとその守護者にすべきだったんだ。君たちの間では他に最強のマフィアなんて呼ばれている男がいるけど、あの器は小さい。ジョット君はやがて彼をも超えるだろう」
これは忠告であるとバミューダは言う。ジョットは姿を現さないバミューダを警戒するが、バミューダは戦う気もないらしい。
「イリデの血筋が傍に居るなんて、皮肉だね」
「"マフィア"の掟の番人が、ボンゴレを訪れた。ボンゴレはマフィアだというのね」
「君たちは掟のないマフィアだ。そうなることは決められた」
「決められた? いいえ、ジョットがいる限り、ボンゴレは自警団よ」
「お前たちは何が目的だ、隠してないで顔をだせ」
 ジョットが闇に向かってそういうと、黒い炎が燃え上がり、不気味な赤ん坊が現れた。赤ん坊と包帯で顔を覆った黒づくめの男達も部屋に入ってくる。
「我々は復讐者、法で裁けない者を裁く者。また会おう」
それだけ言い残し、立ち去るバミューダ。アルコバレーノのことを知らないジョットは眉を顰めるばかりだったが、エルザの体の震えに気付いた。エルザを抱き寄せたジョットは真実を問いただす。しかしエルザは答えることを拒んだ。
「信じよう、ジョット。私達はマフィアになんてなれっこない。人間は神様になれっこないの」

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