並盛町の日常

 最強のヒットマン・リボーンが、沢田綱吉をカテキョーするために渡日して数日。並盛町は、イタリアマフィアのボス候補が居ながらも、町民の知るところではなく、これまで通りの穏やかさを保っていた。沢田綱吉自身も、自らの境遇については半信半疑のまま、非現実的な事実を受け入れつつあった。憧れの"京子ちゃん"と話せるようになったことを考えれば、彼にとっては日常は良い方向に向きつつあったのかもしれない。綱吉は思い描いていた。自分はマフィアのボスになるつもりはない。リボーンは自分を10代目ボスにすることをやがて諦めてイタリアにかえるだろう。そうして自分は、平々凡々に、あわよくば憧れの彼女と結婚……、と。


 沢田綱吉と共に暮らすもう一人の10代目候補、沢田葵の朝は早い。先日の"きょうだい喧嘩"をきっかけに、彼女は毎朝綱吉を起こすという習慣をやめた。ごはんの炊けた音で目覚めて、卵焼きの香ばしい匂いが2階にまで上がってくるころに階段を下りてリビングへ。その時にはもう制服に着替えている。奈々と二人、本当の親子のように会話を弾ませながらの朝食。食後は一杯のリンゴジュース。歯を磨いて、髪をとかして、随分と軽いスクールバックを肩にかける。

 そうして奈々に見送られながら葵が家を出るころ、綱吉はようやく目を覚ます。その時間にはもう、準備する時間と朝食を食べる時間を考えれば、遅刻が確定しているようなものであった。リボーンに頬を抓られて目が覚める思いをしたら、時計を確認して悲鳴を上げる。床に落ちたズボンを拾って履いて、まっさらに洗い上げられたシャツに袖を通す。ネクタイは後回しだ。慌ただしく階段を駆け下りていく。部屋に置き忘れた鞄は、リボーンが足を使って階段から蹴飛ばした。綱吉の後頭部にクリーンヒット。そのまま階段を下りてきて、この日のリボーンは朝食もとらないままに家を出た。綱吉は後頭部をさすりながら、食パンを片手に、ダイニングから玄関へすぐに踵を返した。パンにはジャムもマーガリンも塗ってない。綱吉はたいてい、時間がないときはパンを食べながら登校する。焦りが混じって威勢のいい「いってきます!」を残して、ようやく綱吉も家を出る。

 誰よりも早く起きて、誰よりも元気な奈々は、3人を送り出したこの後からが家事の本番である。それを苦にする様子もなく、今日も鼻歌交じりだった。ささやかな鼻歌を、遠くの爆音が遮ったって、奈々は気付きもしない。

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