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 自警団にボンゴレという名を戴いてから、どれぐらいが経つだろうか。それは俺がボンゴレリングを授かった時期とほぼ等しい。それから、突出した才能を持つ友と出会うたび、一人、また一人とリングを渡してファミリーに加えていった。彼らが守護者と名乗り始めて、それぞれの力をボンゴレに尽くしてくれた。俺たちは守るべきものを守るべく、力を使った。自警団ボンゴレは立ちあがるたびに一回り大きくなる。目まぐるしかった数年の間に、俺は守護者たちからプリーモという呼び名を貰った。皆が愛したボンゴレが、俺をはじめとしていつまでも続くようにと。
 その願いは叶うのだろう。こんにちのボンゴレは、たとえば俺が居なくなっても続いていくだけの力を持っていた。

 こんなに力を得て、何をしようとしているのか。

 端的なエルザの言葉には、まるであの町の皆に言われているような重さがあった。
 生まれた町の皆を守りたかった。最初の大義は変わらない筈なのに、ボンゴレが大きくなるにつれて故郷が遠ざかる。活動の幅の広がりに、俺自身が疑念を抱いていたのだ。

「プリーモ、てめえが言えないなら俺が」
「それには及ばないさ、G」

 せりあがってくる焦りを悟られないようにふるまった。
 エルザや市民が外側からボンゴレを見たとき、俺はその眼にどう映っているのだろう。独裁者になっていないだろうか。上から見下ろしてはいないだろうか。


「前も言ったが、俺たちボンゴレは自警団だ」


 自警団だと断言した俺は、エルザに厳しい目つきで見つめ返された。嘘ではない。これだけは譲れない。エルザなら、分かってくれるだろう。

「世のため、人のため、そう思って始めた自警団だ」

 それでもナポリの市民がボンゴレを歓迎しない理由は、いくつか思い当たる。守るべきものを守るため、組織として犠牲を払うこともあった。戦っていく中で、マスメディアに思いもよらない形でボンゴレを捉えられることも増えてきた。イタリア国内で、北から南、俺たちの名は知れ渡っている。市民のための自警組織か、はたまた台頭した独裁組織か。紙面での扱いは地域性と記者次第だ。

「仕事内容は表向きには自然災害時の人命救急、困っている人から頼まれたのなら、猫探しだって応じている。裏では、最近は上流階級との交流もある。そんな中で、サンソーネのような地主ともかかわりを持った。サンソーネとは、交渉が難航していてな。まずはその問題の解決が最優先になる」

 元より自警団と土地持ちは密接に関係してきた。活動規模が広がれば広がるほど、各地の地主からの協力と認知は必須であった。しかし田舎出身の自警団が、他所の農地自治にまで干渉するようになれば違和感を抱く者も当然現れる。勢力拡大が加速し始めれば、地域を支配する貴族含めて対立も多々あった。

「土地絡みでは、市民を怖がらせるマフィアとも戦ってきた。恨みも散々買ってきた」
「それが、"チェラーゾファミリー"? だったらボンゴレが責められる必要はないんじゃ」「あるんだ」
「どうして……?」


 右手のリング。これを授かった時から、決められていたのだろうか。


「――"マフィア・ボンゴレ"」


 俺自身がその名を言葉にするのは、これが初めてだ。傍らのGが、目を瞠って険しい表情をする。心配はいらない。マフィアになりあがるつもりはない。だが、マスメディアがボンゴレをどう形容するべきか悩んでいる。自警団ボンゴレ、マフィアボンゴレ。実際、最近ではどちらとでも呼ばれる。俺達自警団の正義は、はき違えられたらしい。

「……、あなた達が、マフィア?」

 エルザの笑顔が引きつった。怖いなら、そう言ってほしい。俺達は幼馴染じゃないか。どうして、笑うことを無理させてしまうのだろう。

「時には、そう呼ばれる。あんな小さな町で始めたのにな。俺が一言、……隣の町を潰せ、といえばそれだけで数十の組織と、数百の人間が動くんだ」
「そんなことあなたはしない」

 間髪入れずにエルザは俺の言葉を否定した。厳しく、勢いのある声に、目が覚めるような思いをする。魔がさしてしまったのだ。エルザならそうやって、俺という人間を理解して、認めてくれると分かっていた。その言葉を望んで、望んでもいないことを口にした。とはいえ、するつもりもないが、叶わないことではない事実。ついにエルザの表情には怒りがうかがえる。

「いくらなんでも悪い例えはよして。ナポリの人がどう言おうと、あなたたちの信念に基づいてやってるのは、自警団? マフィア?」

 ボンゴレボス。プリーモ。俺の肩書きを知ってもなお、「ジョット」として向かい合ってくる。彼女にとって権力とは意味をなさないものなのだろう。笑顔がないのは、怯えているからではない。笑ってごまかそうとしないで、変わってしまった今の俺達を見てくれようとしているからなのだ。

 俺は立ち上がり、エルザに手を差し出した。エルザがこの手を取って、"ボンゴレ"を認めてくれるのならば、俺自身が、エルザを守るんだ。

「誓おう。俺達はマフィアではない。俺達は自警団としてお前を守る、この状況も切り抜ける。G、ナックルそれで構わないだろう」
「てめえの好きにすりゃいいさ、俺はついてくぜ」
「究極に同意するぞ!」

 あたりで各々の仕事に取り組んでいた部下たちも、威勢のいい声を上げる。皆、異論はないようだった。昨晩の暴動の後から静まり返ってしまったこの家に、ようやく活気が戻る。熱気が満ちてくる空間。エルザはそれを可笑しそうに眺めて、笑った。男達に混じって喧嘩に勝ったときのような、頼もしいものだった。


「ありがとうジョット。覚えてる? あなた達の正義を信じるといった、私の気持ちも変わらない。ボンゴレは必要とされてるってこと、故郷を代表して私が保障する」


 エルザはそういって、両手で差し出した俺の手を包む。俺のボンゴレリングをそっと撫でた。俺はボンゴレのボスとして、エルザに許されるこの時を待ち望んでいたのかもしれない。ボンゴレと、ボンゴレの仲間は、皆俺の誇りだ。エルザに偽っていてはいけなかった。
 大切だと、言葉にせずに噛み締めた。いつでもこうして傍に居てくれればいいと、欲が出た。だからこそ俺は、平和になったあの町にエルザを帰さなければならない。

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