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 町を出て、敵対勢力の密集地を避けるように馬車を走らせてきた。
 ナポリはいまだ遠く、走り続けた馬の疲労も見て取れて、宿屋の前を借りて馬を休ませていた。山間を越えるまでが一苦労だと、たばこをふかしたGが言う。市街地は避けて通りたかった。いつチェラーゾが奇襲してきたとしても、地域住民を巻き込まないこと最優先だ。
 Gのたばこの煙を目で追い、ふと、故郷の方角を向けば、雲が立ち込めていた。

「こういう日はきまって嫌な予感がするんだ」
「それは外れてくれることを願うばかりだな。だがアイツらのことなら心配はいらないだろ、周辺のチェラーゾ勢力を丸め込めるだけの戦力はある」
「ああ、防衛ならランポウの得意分野だったな、リディオたちも居る、十分か」
「アイツらも俺たちと同じ郷土愛を持つ。その思いってもんはつえーぜ」

 俺が何気なく口にしてしまう予感を信じてくれている反面、頼もしい言葉をくれる相棒に俺は強く頷いた。チェラーゾが俺たちを狙っているのなら、じきに狙いもあの町から逸れるだろう。
 ここにきて2本目に火をつけたG。軽く咳払いすると、たばこから口を離して遠くを睨んだ。俺もつられてGの視線の先を追うと、対向から馬が走ってくるのが見えた。敵か、味方か。Gは懐に手をひそめ、俺はそれを差し押さえた。その必要はなさそうだ。馬は俺たちの傍で急停止し、騎手は下馬するなり俺の前で傅いた。所属部隊を見分けるささやかなピンバッチは、紛れもなくボンゴレの晴を表している。ナックルの使いだ。

「ジョット! G! チェラーゾの奇襲には見舞われませんでしたか」
「ミケ、ご苦労、俺たちは何事もない。ナックルからか」

 成長期の終わりを知らないミケは、あっという間に俺とGの背までも越し、立ち上がればやすやすと見上げるしかなかった。18歳にしてナックルを頭とする晴の精鋭部隊随一の名騎手である。息一つ切らさずごく冷静に、ナックルのサインで締められた手紙を手渡してきた。

「今朝方、サンソーネの次女がチェラーゾファミリーの人質に取られたそうです。今尚、サンソーネは交渉に応じるか渋っているところです」
「サレルノのチェラーゾとナポリのサンソーネ、最近のカンパニアは厄介ごとが多いと思ってたらついに衝突したか……」

 どちらも土地絡みでボンゴレともめている最中だ。これを機にチェラーゾがサンソーネのコネクションを吸収したとしたら、ボンゴレにとっては一層脅威になる。優先すべきは娘の奪還と、チェラーゾの抑圧だ。俺は馬車の先頭に回り、最短ルートでのナポリ行きを指示した。

「ジョットがナポリに向かわれると決まってすぐ、ナックル様もサンソーネとの会談の場を設けるために本部を発たれました。今は警察に通報しないサンソーネを説得しながら、ナポリで混乱する市民の暴動を抑えています」
「アラウディは合流しているか?」
「いえ、入れ違いでした。おそらく鉄道を使って南下されていると思われます。分散するチェラーゾ勢力はカンパニア州内で暴動を起こしている一方、幸い、カラブリアに配置されている者たちと連携がとれていません。カラブリア州内では仲間割れも起きています。流石、武器の数だけで争ってるだけありますよ。我々は……」

 俺の言葉を待たずにミケは馬に飛び乗る。やんちゃ盛りは過ぎ、冷静な判断力を得たミケは、きっとGに似たのだろう。Gもたばこの火をもみ消した。馬も俺たちの気持ちを汲み取ったか、瞳をぎらつかせる。乗り心地は悪くなりそうだ。俺は故郷を振り返らなかった。

「ナポリへ急ぐぞ」

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