リモート飲み会と生徒会



『滝真も生徒会メンツで超リモート飲み会しようよ〜』

「超…?いや俺はいい、お前らで楽しんでくれ」

『はいはい招待しておいたから、入って来るときは名前名乗って心意気を発表してからじゃないとだめだかんね』

一方的にそれだけ言って通話を切る岩村。無機質な不通音だけが残ってそれ以上の反応はもう何もない。

ここ数ヶ月の間、お互い仕事や私生活が忙しくたまに連絡を取り合う程度だった。今回久しぶりに声を聞いたが驚くほど相変わらずだった旧友の様子に、あいつは死ぬまであんな感じで行くのかとため息を吐く。こっちの話を聞かないところなんて学生の頃から何の変わりもない。そもそも超リモート飲み会ってなんなんだ一体。

「……」

軽快な通知音とともにメッセ―ジが届く。確認するまでもなく、それは岩村から送られてきた例の超リモート飲み会の招待コードだったが、当たり前のように添付されたそのリンクを開くか躊躇う。
生徒会面子って、北条戸際の事か?学園卒業後もなんとなく関係の続いていた岩村とは違ってその二人なんて高等部卒業ぶりなんじゃなかろうか。そう思うと彼らと最後に会ってから既に10年近い月日が流れているのか、そこまで考えて時の流れの速さに思わず身震いした。

【は・や・く!】

追い打ちのように続けて届いたメッセージにげんなりと顔を顰める。渋っている事は岩村にはお見通しのようだ、逃がさないと言わんばかりの圧に、今ここで参加しなかったら後が煩くなりそうだし、というか確実に後日ねちねちと責めてくるだろう。それは面倒だと、諦めてリンクをタッチした。


数秒の接続時間が要されて、暗転していた画面にいくつかの枠が表示される。静かだった室内をまるで裂く様に、突如として大音量の声が響いた。


『――っ会長!!!!!』


それと同時に一番右下の枠いっぱいに男の顔が映りこむ。
他の枠にも映像が映し出され始めて、懐かしい面々に思わず頬を緩めた。

「そんなに大きな声出さなくたって聞こえてる。うるせえぞ戸際」

すっかり成長しきって立派な大人みたいな容姿をしているくせに、あの頃とあまり変わらず豊かに表情を変える後輩の名前を呼ぶ。すると戸際は口を結んで、何度も頷くのだった。

「それに会長は勘弁してくれ。卒業から何年経ったと思ってんだ」

『滝真さん……俺の事、覚えててくれたんですね…、俺、俺…』
『戸際くん、やっぱ少し音量設定が大きいんじゃないかな。君の大きな声で耳が痛いから設定しなおしてくれる?』
『あっすみません北条先輩!』

北条。相変わらずの綺麗な顔が毒を吐きながら微笑む。こいつもあんま変わんないなと思う。そういえばどこかの会社の広告で、モデルとして出ていた気がするがそれのせいかあまり久しぶりだという感覚はしない。学生の頃に増して手入れが十分に施されたその容姿に、これは芸能界も黙っちゃいないはずだと納得するのだった。

『滝真くん、僕の知り合いが君にテレビ出演を依頼したいみたいなんだけど今度暇なとき夕飯でもどうかな』

「はあ、テレビ?まさか俺が受けると…」

『まあ恥ずかしがりやの君がテレビどころかメディアに露出なんてするはずないってもう断っちゃってるんだけど』

その気があるならいつでも言ってね、と笑う北条にわかってんなら初めから話すなと口元を引きつらせる。ていうか恥ずかしがりやはやめろ、もっと言葉を選んでほしい。

『てか滝真さあ、俺入ってくるときは自己紹介と心意気発表してって言ったよね?はいやり直しー』

『戸際くんが煩かったから仕方ないよ。それじゃあテイク2といこうか』

岩村の主張と北条の意味の分からない追撃に戸際も拍手で迎える。いやだからどんな流れだよ、やめろそんな事するわけないだろ。と止めるが三人はそれぞれ笑顔だったりにやにやしていたりと各々の表情を浮かべながら黙り込んでしまった。勘弁してくれ、なんだよそれ、というかこの流れ。
どうにか誤魔化せないかとは思うが全員俺の発表を待つように、片手にグラスや缶を持ちながらじっとしている。…仕方ない、逃げられないと諦めため息を吐く。そしてそれを吸い込むように一度深呼吸をすると、あの頃の人前でスピーチをする前の時のように姿勢を正して遠くの一点を見つめるよう、画面ではなくカメラのレンズをじっと見つめた。


「……元生徒会長の浅葱滝真だ。世間は今大変だが、しかしお蔭でこうやってまたお前らと再会できた。距離は遠いし我慢しなくちゃいけない事もたくさんある。けど、大丈夫だ。事態が落ち着いたらまた、今度は直接顔を合わせて会おう。その時を楽しみに、今日を楽しもう」

乾杯。飲みかけのビールを画面に掲げる。
待っていましたと、それに続いて全員が画面上に飲み物を掲げた。


学生の頃とは違って毎日が忙しい。それに考えなければいけない問題や責任も増えた。逃げたいと思うことも決して少なくない。
けれど今日この時ばかりは確かに、青春だったあの頃に戻れた気がしたのだ。





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