5年後のキミ


*理事長×滝真


「理事長。2時の会議に飛行機が間に合わないと連絡が来ましたが」

「あの人はまた・・・。仕方ないから遅らせよう。どれくらいの遅刻かわかるかい?」

「大体1時間で東京にはつくと。」

「そう。それだったら3時で間に合いそうだね。あちらにもそう連絡しておいて」

「はい」

全く、あの人は本当に時間が守れないんだから。
秘書が出て行った室内でひとりゴチる理事長。おいで、と言われて自然と足は理事長の隣へ向かっていった。
腰に手が回されて、座る理事長に合わせて腰を折り曲げる。吸い付くようなキスを唇に落とされれば、そこから数十分と長く深いキスが続くのはもう身に染みていた。

「んっ、ふぁ」

「・・・ん、」

角度を変え、奥まで深くまで。
ねっとりとまとわりつくようなすべてを貪り食い尽くすような深いキス。貪欲に、それは欲した。

「んっ、は、ぁ、りじちょ、」

「は、滝真くん、名前でしょ?」

「りゅ、とさ・・・」

「滝真くんは、キスだけで腰砕けになっちゃうような子なんだ」

「ちがっ、・・・竜都さんが・・・キスしかしない、から」

この5年間。竜都さんはキスしかしてくれなかった。
俺が大学に進学して、バイトとして秘書をやらないかと誘われた。竜都さんにはお世話になったし、この先浅葱を名前を継ぐ俺にトップに立つあり方を教えてくれるといったのも彼だった。
親父には黙っていた、秘書とは名ばかりのバイトになるであろうことがなんとなくわかっていたからだった。

「・・・本当に、君は牙が抜けたようだ」

「・・・俺は、」

トップに立つものに必要なのはなんだ。
今の俺に、それはあるのか。高校生だった俺には確かに、十分すぎるほどあったはずだ。それは自分でもわかっている。当時はわからなかったことも、5年経った今ならわかる。

「浅葱の名前なんて、捨ててしまえよ」

「りゅうとさん・・・?」

「君は弟がいる。今の君には無理だ」

「でも俺は浅葱の長男です」

震える声で竜都さんをじいとみつめる。
わかっている。今の俺にはトップに立つには足りないものが多すぎる。飼いならされすぎた。そうやって気が付いたのは、恥ずかしいことにここ3か月ほど前のことだったのだ。

「・・・そろそろ身支度をするよ。バイトは今日までだ、浅葱を捨てるのなら僕が君を拾おう。・・・その覚悟があるなら、今夜8時、ここで待っていてくれないか」

そう言ってメモ用紙に走り書きを残し、俺に差し出す竜都さん。
それを黙って受け取って文字を見つめる。有名な、ホテルの名前と部屋番号だった。

「それじゃあ、5年間バイトお疲れ様浅葱くん。」

「りじちょ、」

ニコリと笑って俺に背を向けてしまう理事長の後姿を見つめる。
部屋から出て行った竜都さんは、最後まで俺を見ようともせずに前だけを見据えていた。
部屋に一人残された俺は、小さな紙切れをただぼんやりと見つめるだけ。どうするか、答えはすでに決まっていた。


***




「似合わないんだよ、君が手綱を引いてるとこなんて。」

もっと、とおねだりをするような目に、少し突き放せば傷ついたような目。もう離せるはずがなかった。浅葱社長自ら、傍に置いて学習させてやってくれと預かった大切なご子息だがもう我慢できない。
5年かけてゆっくりと飼いならし牙を抜いた。人を従える者の立ち方ではなく、人に従うことを覚えさせた。彼は俺を選ぶだろう。

「さよなら、浅葱クン」

滝真は、俺のだ。


END





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