2015バレンタイン


*岩村×滝真



「ねえ、バレンタインの語源って知ってる?」

教室の自分の机の上でラッピングされたものと、市販の、それもほぼすべてが高級な誰もが名前を知るようなブランドのものとをわけていく岩村の姿をぼんやりと眺める。
俺は彼のような面倒なことはしない。あらかじめ持ってきておいた紙袋にすべてを詰め込んで、自分の部屋に持って行っておしまいだ。机の両横にかかった大き目な紙袋二つと、はいりきらなかった分はロッカーの中に。
俺は、彼のような面倒なことは、一切しない。


「あれだろ、昔バレンタインって名前の司教がいて、当時禁止されていた兵士の結婚を取り持っていたのが皇帝にバレて処刑されてしまった。ってやつ」

ペラペラとどこからか聞いた知識を口にしていく。確か中等部の時の世界史の授業で聞いたんだったかな、いまどき珍しい知識でもない。案外知っているものは少なくないだろう。

「そうそう。でもね実はもう一つ、これなんじゃないか、って話があるらしいよ」

仕分け作業に飽きたのか、ため息を吐きながら一つブランドもののチョコを口に含む岩村。その様子を横目で見ながらよく食えるよな、と関心した。

「どんな?」

「昔の、どこだったかなあ。どこかの国のお祭りで、前日に女の子にそれぞれ自分の名前を書いた紙を提出してもらうんだって。それで、お祭り当日、男がその紙をくじ引きみたいに引いて、引いた子と結婚するっていうの」

なかなか運試しだよね。カラカラ笑いながら、気に入ったのかチョコを食べ進める岩村にそれは初耳だ。部屋に充満する甘たるい匂いに顔を顰めながらも、さすがに窓を開けるにはこの季節は寒すぎる。と身を寄せて我慢することにする。
滝真も食べる?と箱ごと差し出す岩村にいらん。と一言だけ返したら笑われた。


「甘いもの食べないからそんな仏頂面なんだよ」

「それは関係ないだろ」

俺みたいに甘くならなきゃ。
そう言ってもう一つ口に放り込む岩村。岩村みたいなやつにあげるべきなんだ。手作りはさすがにこの男でも無理だとしても、きちんと包装された未開封のブランドものならばこうやって幸せそうにうまそうに食べてくれる。
でも俺は。

「今年も全部捨てるの?」

「まあ。・・・仕方ないだろ」

俺だって心苦しいさ。
幼いころからの教訓で素人の作ったものは食べないようにしているし、まず甘いものは嫌いだ。だから毎年渡されるものはすべて断ってきたし、ひどい時は目の前でゴミ箱に捨てたこともあった。さすがに今はそんなことはしないが。

「ビター系多いし」

「そんなところで気を使われても困るんだがな・・・」

「副会長も今日は休みだし。快斗はどうかな、大変そうだ」

俺も今日は休むんだったな、と若干の後悔を抱きながらさてそろそろ帰ろう。と席から立ち上がる。
教室の窓の外はすでに暗い。ついさきほどまで生徒会室で岩村と二人で避難していたのだ。今日一日はほぼ生徒会室で溜まった仕事を片付けていた。おかげでこれから楽になりそうだ。

「あ、もう帰んの?」

「ああ」

「ふうん。・・・じゃあね」

「一緒に帰んねえの?早くしろよ」

「ええ、急かさないでよ。俺ゆっくりやるつもりだったのに」

「いいから早く」

「はいはい。・・・あ、滝真。」

「ん?」

「ハッピーバレンタイン」

はい。と渡された小さな小箱に首をかしげる。

「なにこれ」

「鯨缶」

日ごろのご恩がね。と笑う岩村に毒でも入ってんのか?と小箱をジイと見つめる。
あの岩村が俺に対してバレンタインデーに何か贈り物をするだなんて、信じられない思いでそれを受け取った。

「さんきゅ」

「それ、くうの?」

「缶詰なら食えるしな、せっかくだしありがたくもらっとくよ」

お前にしてはどうかと思うセンスだが、と少し笑っていってやる。
岩村は少しだけ笑うと一粒チョコを口に運んで、このチョコちょっと苦いわ。と苦笑を漏らした。


END




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