please your life2


「うぉぉ、やっべえ、瑞樹ちゃんだよ、やばいって、やばい」

案内された席は割かし彼らと近い場所だった。
俺の座った位置からはちょうど俳優の如月大和と最近よく見る新人アナウンサーの東間侑人の姿が見える。ぶっちゃけ二人ともかっこいい。
斉藤の席からは華井瑞樹が見えるみたいだ。羨ましい。俺も瑞樹ちゃんみたかったがちょうど見えない。羨ましい。


「顔、顔小っちゃい、やばい、夢みたいだ」

さ、サイン貰いに行っていい?鼻息荒くそう俺に尋ねる斉藤に若干引く。気持ち悪い。

「行くなら俺は帰るぞ」

「なんでだよ、お前も貰いに行けばいいじゃねえの」

「別にそこまで好きなわけじゃないし、」

「この不幸もの」

そんな感じで頼んだアイスコーヒーをのみながら言い合いをしているうちに、どうやら撮影の方は終わったみたいだ。
プロデューサーみたいな人がアナウンサーと進行役だった芸人に何やら話をしている。如月大和は疲れたように水を飲んでいる。水飲む姿もかっこいいとか。

「あ」

「?えび、どうした」

「目、あった」

如月大和と。

「え、うそ、え、まじ?いいな、いいな!!」

「どうしよう、離れない」

目が、あったまま離れないのだ。
視線を外すことができないまま、体の動きも止まる。如月大和は驚いたように目を丸めているが、俺の方が驚きたい。早く視線外してくれないか。

「え、斉藤、やだ、きた」

「え・・・えっ!!!」

如月大和はまるで吸い寄せられるみたいにして、こちらへと歩いてきた。いや、もしかしたら俺の勘違いかもしれない。・・・でも、目が外れることはなくて、だんだん俺と彼との距離は短くなってきていて。

「か、帰ろう!!」

「はっ、え、えび!?」

だめだ、耐えられない。
急いで椅子を引いて立ち上がる。しかし急に立ち上がったせいで椅子は倒れてしまったようで、大きな音が店内に響く。冷や汗と鼓動がうるさく俺を急き立て、あわてる。や、やばい、どうしよう。


「ちょ、ちょっと待って」

「ひっ、」

慌てて椅子を起こそうとした時だった。
グイ、と腕を引っ張られて反射的にそっちへ視線を移した。そこにいたのはいつの間にかこんなに近くに来ていたのか、如月大和が。こんなに近いところに芸能人が、いる。
顔は綺麗に整っていて、身長も俺と比べ物にならないくらいデカい。肌もきれいだし、なんかいいにおいもする。あれ、なんでこんなことになって・・・。

「すすむくん、?進夢くんだよね?」

「えっ、えっ!?な、え、なんで?」

「俺やまとだよ、足立芸能プロダクションの!」

足立芸能プロダクション。如月大和の口から出てきた、名前に体の動きを止める。
小さなころ、それも小学校に入る前のことだった。いやいやながら通わされていた芸能プロダクション。小さいころはまだ可愛げのあった俺はいくつかCMの出演とかのオファーが来ていた気もするが、小学校に上がるのを機に芸能活動をやめたのだ。
短い間だったがお世話になったのが、今彼の口から出た足立芸能プロダクション。小さい事務所ながらも俺に仕事を回してくれたいいところだった。

「覚えてない?俺のこと」

「ていうか、え?あ、・・・うん、ごめん、覚えてない」

事務所一緒だったんだっけ?
ていうか何年前のことだよ。覚えているわけがない。赤いのか青いのかわからない顔色のまま如月大和の腕を振りほどく。店内の視線がすべてこちらに集まっているのだ、勘弁してくれ。

「あ、あの、すみません。失礼します、・・・斉藤帰るぞ!」

「あっ、待てって、えび!」


慌てる斉藤に視線も移さないまま、如月大和に背を向ける。
とんだ厄日である。止まることを知らない冷や汗をぬぐって、強くつかまれた腕をさすった。

***


『君の人生、おれにちょうだい?』

甘い、甘い笑顔を浮かべて舌足らずな口で小さな体を抱きしめる。
ふわりと鼻をくすぐった石鹸のにおいは今でも覚えている。小さいながらもその香りに確かに興奮したのだ。

ハイ、カット!
男の声でビデオが止まる。一言もしゃべらなかったすすむくんは疲れたように息を吐き出すと俺の胸を強く押して離れて、とつぶやいた。
同じ事務所のすすむくん。2こ下のすすむくんはまだ幼稚園に通ってるんだって、マネージャーさんから聞いていた。
結婚式のCMで一緒に働くと聞いて、とても楽しみにしていた。あまり俺としゃべってくれないすすむくんと一緒に働けるのだとわくわくしていた。
これから仲良くなれるのだと楽しみだった。

だけど、すすむくんはその結婚式のCMを最後に引退してしまった。


「・・・すすむくんの人生、俺にくれないかなあ」

昔のビデオを何十回、何百回と見直してきた。
いつみてもすすむくんはかわいい。あの日くれなかった答えを、今度こそ貰いに行かなくちゃ。
ようやく見つけた進夢くんの姿。あの頃となんら変わりない匂い、態度に確かに興奮を覚えて、俺から去っていく進夢くんの後姿を高鳴る心臓のままジイ、と見つめた。


END




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