◎ 年越しその4
「ハッピーニューイヤー!」
おい糞、と罵りたくなるほどの暑苦しさだった。
扉を開けた先にいたのは、タバコを1カートンずつ両手に持ちながら(計2カートン)、更にタバコを1本咥え満面の笑みで突っ立っている佐藤雅宗だった。
糞以外の何物でもない。ただの糞だ。
「お前、よく堂々と廊下でタバコ持ち歩けるな・・・しかもまだ年明けてねえ」
「え?まだ2013年?」
バカなのかこの男。
ヘラヘラとタバコを抱えながら、火のついていないタバコを加えたまましゃべるからよく聞き取れない上に非常に馬鹿っぽい。
しかもこのテンション、このだらしない表情に赤い顔。タバコの匂いに紛れてほんのり香るアルコールの匂いがすべてを物語っていた。
「・・・どこで飲んできたんだよ」
「外外!!マジやべえよ外、本当あれは凍る!」
「そうか、・・・なんで此処に来た?」
「え?いや?特に理由はないけど」
ほら、年明けたら一番に挨拶するのは生徒会長様かなって。プレミアつきそう。
そんな風に呂律もうまくまわっていないまま、真剣な顔をして言った後、一人で馬鹿笑いする雅宗に深いため息を吐き出した。完全にこいつ飲みすぎてる。
「ちょっと中入れろよ、さみいんだよ廊下」
「これから風紀委員長もくるぞ?いいのか?」
「・・・やめとくわ。俺帰る、じゃあな」
いきなり真剣な顔をした雅宗に苦笑いを溢した。
よいお年を、そう言って背を向けて歩き始めてしまった雅宗の後姿を眺めながら、気を付けろよ、と声をかける。
足元がおぼつかない。ふらふらしているし、何より両脇に抱えたタバコが邪魔そうだ。
「・・・あ、」
「?・・・なんだ」
そういえば、と雅宗は何か思い出したようにコチラを振り返ってから俺の顔を数秒見つめると、手元のタバコの袋を開け始めた。廊下の真ん中で何をやっているんだあの男。
嫌な汗をかきながら、その行動を眺める。酔った人間とは面白いものだ。
「滝真、これやる」
そう少し大きめの声で言うと、何か投げてきた。
小さい。慌ててそれをキャッチする。・・・タバコだ。
「委員長に見つかるなよ、会長!」
「いらねえよ!!」
投げ返してやろうかと思ったけれど、雅宗はもう歩き始めてしまっている。あけてしまったカートンが酷く持ちづらそうだった。
面白いが、面倒なのがアルコールにやられた人間というものなのだ。
手元に残ったセブンスターの銘柄に、アイツは本当に早死にしそうだなとぼんやり考える。高校生がこんなものを使用するんじゃありません。
「滝真ー?誰だったの?」
「あ?あ、ああ・・・佐藤だよ、Dの」
「ああ、滝真のお友達のねー」
様子を見に来た岩村が不思議そうに俺の手元のブツを見つめる。
やばい、と思ったのには少し遅かったみたいだ。
「ちょっと、滝真」
「だー・・・違うって、アイツに無理やり渡されただけだから」
「本当?もうやんないって言ったよね?俺、まじで滝真のタバコだけは許さないからな」
「ああ、受け取った俺も悪かった。捨てるから」
「そうして」
まるで親のようだ。
本気で怒っているのか、顔を歪める岩村にコイツと雅宗は絶対にあわないんだろうな、なんて考えながらタバコの箱を握りしめる。ソフトだから柔らかいお蔭で簡単につぶせた。
それをうんうん、とうなずきながら手を差し出す岩村にほら。と潰れたタバコを渡した。
「浅葱。岩村。待たせた」
グッドタイミング。
潰れたタバコを岩村が自分のポケットに仕舞い込んだところで、支えていたままだった玄関の扉が外から開けられた。少し体制を崩しながらそちらへ視線を移せばそこにいたのは待っていたその人であったわけだが。
「加賀谷・・・と、お前らは・・・」
「ごっめんね?生徒会長の部屋に入れるって聞いて!こんな機会滅多にないでしょ」
「・・・ふん」
いや、まあうすうす感づいてはいたさ。いらっしゃい、とニコニコ笑う岩村を背に、加賀谷の後ろに見えた二人の風紀委員の姿に苦笑を漏らして、さあ入れよ。と自分の部屋へ招き入れた。
この面子では年越しまで、まだもう少しだけかかりそうだった。
END
あけましておめでとうございます!
今年もよろしくお願いします^^
1月中に続きの年越し後のお話書きます。
140104//磯城
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