年越しその3


「本気で言ってるのか?」

「なんで嘘つかなくちゃいけないの?」

しらっと言ってのける岩村にまあそりゃそうだが、と口ごもる。

「まあ、一人で来るならまだかわいいもんだよね」

「どうゆう意味だ?」

「なんでもないよ」

年越しそばとか用意してないの?と勝手にキッチンへ向かう岩村の後姿を眺めながら、そばは用意してねえな。と考える。
この季節なら売店にありそうだが・・・さすがに今から買いに行くのは少々面倒だ。
岩村の後を追ってキッチンへ。冷蔵庫脇の棚にインスタントラーメンならあった。


「・・・ラーメン食べるか」

「年越しラーメン?2013年に取り残されそう」

「うるせ」

食うぞ。とインスタントのしょうゆ味を3袋取り出す。ちょっと待って、と岩村に止められたが、やっぱりいいやと勝手に冷蔵庫をあさり始めたので気にしないことにする。
そういえば加賀谷はあとどれくらいでくるのだろうか。3分で出来上がるのだから、来る時間が遅かった場合早く作りすぎては麺が伸びてしまう。
おい、とガサゴソと冷蔵庫の中身を引っ張り出してくる岩村に視線を移した。


「来る時間?今から向かうって言ってたけど」

「よほど暇だったんだな・・・」

本当、珍しいこともあるものだ。
それでは作ってしまおうかと大きめの鍋に、決められた分のお湯を目分量で注いでから火をかける。沸騰までは具を用意しようか。

「はい。冷凍のきざみねぎと冷凍のホウレンソウと冷凍のコーン」

「・・・わざわざ冷凍のつけなくていいだろう」

カラカラと笑う岩村から、差し出されたグザイを受け取ってから使う分だけ適当に皿に出した。具材はきちんと元の場所に戻すと少し冷凍庫に空きができた気がした。
まあ、使ったんだからそりゃそうなのだけれども。
ふと、リビングの方から俺の携帯の着信音が聞こえることに気が付いた。


「ちょっとラーメン見てろ、電話だ」

「うい」

短く返事をして、沸騰しはじめたお湯を眺める岩村を一瞥してからリビングへ急いだ。
初期設定のままの、携帯の着信音がバイブ音とともに震えている。机の上に置きっぱなしだったから非常にバイブの低い唸るような音がうるさい。
慌てて携帯を手に取って画面を確認する。えーなになに、


「・・・あいつもしつこいな」

画面に表示された"赤城"の2文字にため息を吐き出して、さて電話に出ようか出まいか考えること2秒。よほど大事な用があるのか。それともただ暇なのか。大体後者だろう。しょうがない、出てやろう。とスマホの画面をタッチしようとした時だった。
室内に呼び出し音が鳴り響いた。誰か来たみたいだ。反射的に玄関へ視線を移してしまったが、きっと加賀谷だろう。・・・いや、少し早いか?でも、もしかしたら近いところにいたのかも。
未だ震える携帯を一瞥してから、加賀谷も赤城も年末までお互いの存在を思い出したくなかろう。とそっとソファの上に置いた。
柔らかいお蔭でバイブ音は気にならない。よし。


「岩村、加賀谷来たみたいだ」

「え?影也?ちょっと早すぎじゃない?」

「・・・まあ、出てくる」

不審そうな顔をする岩村に、確認した方がはやい。と玄関へ足を向ける。
残念ながら今、インターフォンが故障していて映像が映らないために確認はできないんだ。玄関の電気をつけてから、鍵を外して少し重たい扉をグ、っと押した。

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