年越しその1


テレビをつけたまま、部屋でゆったりと雑誌を眺めていた。
ヒーターを付け、温まった室内に加湿器のついた乾燥対策完璧の一人部屋。不意に玄関の扉が叩かれた。

「ピンポーン」

「・・・何やってんだよお前は」

「あれ?起きてたかあ、寝起きドッキリしかけようと思ったけど失敗失敗」

口で控えめにピンポーンと言われたってかわいくもなんともないぞ、と勝手に人の部屋に遠慮もなく入ってきた岩村の姿にため息を吐き出した。
第一鍵閉めておいたはずなのに、どうやって入った・・・なんて愚問か。岩村の指に引っかかって銀色に光っている鍵・・・マスターキーに本当一度この学園のシステムを見直さなければいけないのではないか、と呆れる。
読んでいた雑誌を閉じて机の上に置く。岩村はまるで我が家のようにソファに腰を落としてから寝ころぶと、いつも思うけどいい部屋住んでるねと嫌味を垂れた。

「で?こんな時間に遊びに来るなんてなんかあったのか?」

「何言ってんの?俺だって夜、いつも腰振ってるわけじゃないんだよ?高校最後の年越しくらい古い友達と過ごそうかって言ってるのー」

珍しく怒ったように、少しきつめに言う岩村に目を丸める。
確かに俺たちはもう高校3年だ。4月にはそれぞれの進路に向けて発っていくことになるだろう。この学園の大学部に進むものも半数くらいはいるだろうが大学部へ上がってまで学園の寮に入るとは思えない。
なんて言ったってようやく手にできる自由だ。全寮制からの解放。感動は並大抵のものではないだろう。


「そうか・・・そうだな、久しぶりに3人で集まるか」

「ああ、影也?あの石頭年末のくせに忙しそうにしてたよ」

「・・・風紀は忙しいのか」

損な委員会だと思う。満足に休むこともできないだなんて。しかも今は冬休み中である。帰省している生徒も少なくないだろう。
その中で委員長である影也は風紀を守るため走り回っているのだと思うと、どうもやりきれなくなる。

ふと視線を移した卓上のデジタル時計は23時30分を示していた。
あと30分で今年も終わるのか、早いものだ。今年は忙しく、いろいろなものがすぐに過ぎ去っていってしまったような気がした。


「そういえばあけおめメールつくった?」

「なんだそれ」

「ええ?今年は皆でやろうねって言ったじゃん、忘れたの?」

そんな話、しただろうか。
黙りこくってしまった俺を見て、岩村は呆れたようにため息を吐き出すとおもむろに携帯をポケットから取り出した。
それからどこかへ電話をかけはじめる。一体誰だろうか、と一瞬思うがどうせセフレだろうと勝手に決め付けてから、俺もなんとなく携帯を開いた。
新着メッセージ一件。送り主は・・・赤城だ。見なかったことにしよう、俺は気が付いていないと自分に言い聞かせてから携帯を机の上にそっと置いた。


「あ、もしもし?どう?捗ってる?・・・ふうん、はいはい、あそう。へえー。・・・え?いや?ひやかし」

「・・・影也か」

こんな適当な岩村も久々に見た。
セフレ相手にこんな対応なわけがない。馬鹿にしたように口元に軽い笑みを浮かべながら電話口の向こうにしゃべりかける岩村をぼんやりと眺めた。

「今は滝真と。・・・ああ、・・・うん。はいはい、わかったから、代わるよ」

ほれ、と口に出さないままスマホを差し出す岩村から受け取る。
そのまま耳に持って行って電話口にしゃべりかけた。


「もしもし、代わった。浅葱だ」

『ああ、俺だ』

低い、聞き覚えのある声に目を細めた。名乗らずに俺だ、で伝わるのが癪だったがどうやら忙しそうな雰囲気ではないので少し安心した。
岩村に目線を移してみると、彼は彼でさっきまで俺の呼んでいた雑誌を読んでいる。
すぐに時計へと視線を移した。

「仕事なんだろ?どうだ」

『ああ、思ったより暇だ』

「まず人がいないだろ」

『ああ。人の集まる屋上だとかロビーに委員を何名か配置してあるから―』

ガサガサ、と雑音が混じる。
何事かと思って少し耳から携帯を離すがすぐに消えた雑音になんだったんだ、と眉を顰めた。

「もしもし?かげや、」

『あっ、もしもしー?あれ?その声もしかして会長?うわ、空くん!聞いて!朗報!委員長ってば会長と電話してる!!』

・・・どうやら余計な者に影也の携帯が渡ったようだ。


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