初等部のお話その2



「あいつの親、うわきとかふりんとかしてるんだってーだからお母さんいないらしいよ!」

「あいつに近づくとばい菌うつるぞ!」

「あいつの家悪いことしてる家で、誘拐されちゃって、目とか心臓とか勝手に売られるらしいよ!!」


最初は噂話だった。

根拠も何もない、ただの噂。それはどこまで広まったのかはわからないけれど、先生達は何も言ってこなかった。
そして、転入生さえも何も反論しなかった。
これに調子づいたのか、次第には漫画で得た知識なのだろう。
物を隠したり、捨てたり、悪口を言ったり。更には間接的に危害を加えるようになっていった。

別に、クラス全員が乗り気なわけじゃなかった。
だけど、結果的に誰も止めようとはしないのだ。ただ見ているだけ。俺も、そんなたくさんの人間の一人だった。
くだらない。・・・だけど、関わりたくない。
面倒ごとは、嫌いだ。


(別に、興味ないし)


俺にとって、イジメよりも転入生よりも、今井先生よりも、もっと気にしていることがあったわけだから。





ある日のこと。
俺は職員室へと呼び出された。
イスに座り俺を見つめるのは今井先生。彼女はニコニコと笑っていた。

「滝真くん、やったわね!あなたが学年一位よ」


学年一位。一瞬にして今まで見えていなかった周りの色が見えた気がした。


「再来週の日曜日。帰る私宅をしておいてね、お迎えに上がってもらうわよ」

この学園の初等部では、通常帰宅を認められていない。
そこには様々な理由があるのだが、一番の理由は帰ってこれなくなってしまう恐れがあるから。だ、そうだ。
それは、子供本人が帰りたくないと駄々をこねるからかもしれないし、逆に親が帰そうとしないかもしれない。
もしかしたら、生きて帰ってこれなくなるかもしれない。・・・などなど。
しかし、例外もある。
学年で三番以内に入ること、それがその条件だった。

初等部のこの時期には大きなテストが行われる。それも、年に一回だけの大きなチャンス。
俺はふ、っと肩から力を抜き、へにゃりと笑った。


「はい」

先生の、温かい手のひらが俺の頭を、優しく撫でた。






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