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 朝から大変だった。
 倒れた響を保健室まで運んで、ようやく自分の教室へとたどり着いた。まだ予鈴も鳴っていなかったが教室には既に半数以上の生徒が登校している。
 自分の席へと向かうと、いの一番に駆け寄ってきたのは学園内でもゴシップ好きとされるクラスの委員長だった、

「浅葱、お前編入してきた2年と付き合ってんの?」

 黒縁の眼鏡を光らせる委員長を手で追い払う。なんだかんだ言っても初等部の頃からの付き合いだ。

「付き合っていない、弟だ」

「おっ弟!?」

 これはゴシップ!と叫ぶ委員長、今日も平和そうで何よりだ。

「詳しくお話をお伺いしてもよろしいかなっ!?」

「"ギブアンドテイク"なんだろ?俺は情報を提供するけど委員長は何を用意できんだよ」

「もちろん、お昼の購買くらいならひとっぱしり行ってきますよお」

 それで?一体どういうことなの?と目を輝かせながら詰め寄ってくる委員長を教科書で押し退ける。邪魔だし微妙に気持ち悪い。話す気も失せてきたがクラスメイトの視線が興味深そうに俺たちへ向いてるのを感じてもう一度ため息を吐き出した。

「名前は晴。一個下で、東葉から転入してきた俺の弟だ」

 大きい見出しをつけて、次の休み時間にでも広く知らせてくれ。
 学園には新聞部や広報部やら、そういった情報を提供する部活がいくつかある。お互いの部活は情報をより速くどちらが手にできるか、またそれをどちらが早く生徒に知らせることができるかに情熱を注いでいる。
 いわば競争社会。勝つか負けるかの勝負の世界。生徒からの支持の多い部はその分部費を多くもらうことができるし待遇もよくなる仕組みのためである。
 そして委員長はそんな激化した対部戦争の片側、星渦学園新聞部部長でもあった。

「でかでかと報せてくれ」

 弟と知らずに勘違いして、馬鹿な行動に出るような奴が出てくる前に手は打っておきたい。ていうか余計な誤解を生んだままでは俺が嫌だ。
 俺でさえこんな詰め寄り方をされるのだ。晴は大丈夫だろうか。不安になる。嫌がらせをされていないといいんだけど。

「高校二年生ってことか、なんでこんな中途半端な時期に転校してきたんだ? 何か問題でも起こしたとか?」

「晴は問題を起こすようなやつじゃない。理由は…悪い、聞いてない」

「なるほどなるほど」

 兄も知らない情報か。と嬉しそうに委員長はメモをとる。確かに、なんでこんな微妙な時期に転入をしてきたんだろう。晴も特に何かを言っていなかったし、実家に連絡したときは本人が望んでいるからと、それだけだった。一度聞いてみてもいいかもな、と考えて、それと同時に担任の教師が教室へ入ってきた。
 何名かの空席を残したままクラスメイトたちは各自の席へつき、委員長はそそくさと自分の席へと戻っていく。
 空席の一つに、北条の席があることに気が付いておや、と思う。今日は特に朝の活動を行っているなんて話は聞いていない。普段から遅刻なんてするような奴じゃないし。急ぎ足で始まった朝のHRを聞き流しながら、北条のいない席をじいっと見つめていた。




「まあそういうわけで1,2限は球技大会の種目決めになったわけですが」

1限の始まりを告げるチャイムの後、進行役を任された委員長が教卓前でチョークを片手に離し始める。

「各自希望する種目に名前を書いていってください。定員は書いておくけど、一回それぞれの希望を見たいので人数は気にしないでー」

 委員長の音頭の後、各々が黒板に名前を書くため立ち上がる。

「浅葱、お前はどうすんの?」

「……今年も不参加だな」

いまだ空席の北条の席を見つめながらすぐ近くまでやってきた委員長に答える。
動くことは苦手ではないが、如何せん当日生徒会役員は毎年仕事に追われる予定だ。余計な体力はあまり消費したくないのが本音でもある。

「高校生活最後の球技大会だぞー。いいのか?」

 困ったように眉を寄せながら言う委員長に口を噤む。高校生活最後。俺たちは今年で高校生じゃなくなる。今までを思い返してみて、確かに、少し惜しいような気もして頭をかく。

「……まあ、出れそうだったら出るかな」

「そうか、みんなも喜ぶと思うぞ」

 嬉しそうに言う委員長になんでお前が嬉しそうなんだよと笑った。

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