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それは見世物かなにかかと思った。
綺麗な顔をした生徒をランキング化して順位をつける。整った顔に応じて大事な役職までつけてしまう。

まるで普通のことのようにこの学園の生徒はそれを受け入れている。
外からやってきた人間がこの世界へ馴染むことの方が大変だろう。世界から隔離されたこの学園は、まさに異常だった。

中身を見ようとしない。
外面だけ整えられた人間が頂点へ立ち、すべてを動かす。
教員よりも権力が強い生徒会や風紀の力が邪な人間に渡ればどうなってしまうのかなんて安易に想像できた。
……いや、そんなことはどうでもいい。
この学園に編入してまだ短い俺にとって、学園の存亡の行方なんで知ったこっちゃない。

誰も、彼の中身を見ようとしないのだ。
外見で選ばれ、頂点に立つあの人は大人しくその立場を受け入れてそこにいる。
それはある種の見世物、娯楽品と同じだ。
初めて会った時の、彼の"外"に対する完璧な対応と、疲れ切った表情が酷く心に突っかかっていた。

「気持ち悪い、」

自由もなにもない閉鎖空間。

あの人の何もない表情が浮かび上がり、心臓が締め付けられた。痛い、痛い。心臓が痛い。この学園は、気持ち悪い。


「―気持ち悪い」

「っはあ?何言ってんだよお前、僕たちの話聞いてたの?」

小柄で綺麗な顔をした生徒と、がたいのいい生徒が俺を物陰に追い詰める様に目の前に立ちはだかっていた。
これが昨日クラスメイトが言っていた、制裁とかいうやつなんだろうか。
俺が生徒会へ近づいたから。風紀に近づいたから。ランキング上位者に近づいたから。俺は、罰せられるのか。


「これ、忠告だから。本当にこれ以上近づいたりしたらマジで痛い目見ることになるよ?もう学園通えなくなっちゃうかも」

「・・・」

「ねえ、返事は?」

「・・・」

「返事は、つってんだろ! お前、はいも言えねぇの?」

毒を吐くかわいい声が耳元で叫ぶ。胸倉をつかまれ引き寄せられているせいで息が苦しい。浅い呼吸を繰り返しながら、厚いレンズ越しに目の前の男を睨みつけた。その時だった。


「おーい、喧嘩はやめなさーい!」

その場にいる全員の視線がそちらへと向く。
こっちへ向かってくる人影が大きく声を張り上げた。此処からでは逆光で姿は見えないけれど、もしかしたら異変に気が付いた生徒か、風紀かもしれない。
慌てたように名前も知らない二人の生徒は俺の体を離すとさっさとどこかへ走って逃げて行ってしまった。その後ろ姿を眺めながら、ずれてしまったメガネとカツラを直す。
朝からついていない。

「あれ? 一人?」

「待て晴! 馬鹿、一般生徒が突っ走るな、……って、お前は」

「あ……会長、」

俺の姿を認めるなり驚いたように目を丸め、言葉を失くす会長に安堵した。そんな俺とは対照的に会長の綺麗な顔が歪んで、思いつめたように固まる。会長は何も悪くないのに、そんな表情する必要がないのに。
ぼんやりと考えていると身体から力が抜けて膝から崩れ落ちた。ああ、倒れると思った時にはすでに会長の腕に支えられていて。

「おい、響。大丈夫か、」

「すみま、せ・・・」

編入してきてからずっと、会長には迷惑かけっぱなしだ。申し訳なさにもう一度謝罪をしようとするが、自分の意志とは関係なく脆い意識はまるで落ちるように闇に飲まれてしまった。


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