9
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午前1時。兄はとっくに眠りに就いていて、静かな寝息を立てていた。
ベッドの足元に用意してくれた敷布団の上に座って、眠る兄の寝顔をじっと見つめていた。眠るとまるで幼いこどもみたいにあどけなくなる。この寝顔を知る人は、この学園にどれくらいいるんだろう。愛らしい寝顔を眺めながらそう考えて、慌てて顔を振る。やめよう、せっかくの時間が台無しだ。それ以上は考えるだけでイラつくから。
布団の中から兄の手を探して取り出す。力が抜けていて温かい。手の大きさは同じくらいだろうか。手を合わせてからゆっくりと指を絡ませた。それもまるで恋人同士みたいに。どきん、どきん、心臓が高鳴る。ずっと会いたかった。ずっと触れたかった。眠る滝真の頬を手のひらに包み込んで、唇をなぞる。ふにふにしている。静かに顔を寄せる。心臓が爆発してしまいそうで、息を呑む音さえ大きく思える。
「……っ、」
唇が一瞬重なって、慌てて離れた。滝真を見つめるけれど、起きる様子は見られない。昔から一回寝ると中々起きなかったけれど、それは今も変わらないようだ。
全身が燃えるように熱い。重なった唇から甘くてどろりとした感情が沸き起こる。ずっと、ずっと触れたかった。ずっと好きだった。兄弟なんて関係ない。俺は兄貴が、滝真のことがずっと。
「……すき、なんだ」
滝真の首に顔を埋める。深く息を吸うと肺いっぱいに滝真の匂いが満ちて、もうどうしようもなくなる。熱を持つ己の中心部にそっと手を這わした。これから行うのは許されないこと。決して滝真にバレてはいけない思い。……でも、いざ本人を前にすると、わからせたくなった。押し付けて受け入れさせたくなった。俺は一人で抱え込みすぎて、きっとおかしくなっちゃったんだろう。好きだ。どうしようもないくらい、おかしくなるくらい、俺は兄貴のことが。
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