26,入学式
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「成(なる)ー! お前、昨日どこ行ってたんだよ? 授業ないからってサボりか? 連絡くらい返せよな」
「ああ、……うん、ごめん。体調崩しちゃって、保健室にいたんだ」
「ふうん、まああんまり無理するなよ。……お、新入生入場だって。……なんかやけに頭の色カラフルじゃね?」
「佐藤先輩とか、そっちで有名な人多いからだって誰か言ってたけど」
「え、なに舎弟申込み?あの人、外部から新入生呼び寄せるほど有名なのか」
「んー、どうなんだろ。でも強いとかすごいとか、そういう噂はよく聞くよね」
「強いすごいって……。って言ってもよ、そんな憧れではいれるほど甘くないだろうちの学校」
「まあ、そうだよな」
「? なんか元気ないな、やっぱまだ体調悪い?」
「いや……」
「成?」
相良成(さがら なる)は少し俯いてから、隣に座る級友に苦笑を漏らした。
心配をかけて申し訳ない、真面目な顔をしてこちらを見つめてくる友人に大丈夫だと笑みを浮かべる。
「なる、」
本当に大丈夫か―そう言葉をつづけようとした友人の声は、一気に湧き上がるように出た歓声によってかき消されてしまった。
耳を劈くような大音量。野太い声に混じる黄色い声が異様に存在感を増す。
「!!!っあーくそ、まじで耳いてえし心臓に悪いし!」
「これは何回経験しても慣れないな」
体育館中央の花道を歩く男子生徒たち。名を知らないものはこの学園にいないほどの有名人である。
「いつみても華やかなグループだな、いけすかねー」
生徒会長を先頭に続いて歩く生徒会のメンバー。機嫌が悪そうな顔をする会長に、にこやかに歓声に手を振る副会長。同じように手を振ったりウインクを飛ばしたり忙しそうな会計と、その様子を呆れたように眺めながらも続く書記。
補佐は今回も欠席、と。成が口の中でつぶやく。今頃病院のベッドで点滴にでも繋がれているのだろう。かわいそうに。
先頭を歩く生徒会長の姿を見つめながら、成は昨日の自らの身に降りかかった悪意による不幸と、そしてその直接的な原因ともいえる体の弱い義兄のことを考えていた。
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