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「はあ、疲れた……。ひとまずどうにかなりそうなのはよかったけど」

「悪いな。すぐ帰れると思ったが意外と時間かかった。」

「明日の式が成功するならなんでもいいよ……。ああ、それと予算飛び出た分の理事長印欲しいんだけど、会長に任せていい?」

「ああ、明日にでも書類にまとめておいてくれ」

「新年度早々疲れたぁ……」

「……だな」

 学園内巡回バスは既に行ってしまったあとで、仕方がないので岩村と二人、寮までの道を歩いていく。帰路に生徒の姿は無く、それもそうかと腕時計を確認してため息を吐いた。もう夕方だ。せっかくの半日授業日で早く帰れると思っていたのに、まさかこんな時間になるとは思いもしなかった。
 隣を歩く岩村もダルそうに首を回して音を鳴らしている。ああ、穏やかだった春休みが恋しい。これからまた慌ただしい毎日がやってくるかと思うと、深いため息をつきたくなる。

「滝真、やっぱ生徒会やめねぇ?」

「馬鹿。今年度始まったばかりだぞ、いくらなんでも早すぎんだろ」

「えぇ…。俺もう疲れたぁ、普通の男子高校生やりてぇよ……」

 岩村が大きなため息を吐きながら上から覆い被さってくる。体重を掛けてくるから重いし、何より歩きにくい。腕で退けようとするけれど、岩村は意外としつこかった。

「おっもい、どけ!」

「もう歩けなーい。おんぶしておんぶ」

「甘ったれんな、自分で歩け馬鹿」

「……俺は知っている。その厳しさも滝真の不器用な愛だという事を……あまーい!」

「うっるさい! 耳元で叫ぶな!」

 覆い被さったまま離れない岩村を無理やりひっぺ返すと不服そうな文句が飛んできた。どこまでもうるさいやつだ。ちょっとは静かにできないのだろうか。

「明日の入学式には何事もなければいいんだが」

「嫌な予感がびしばしするよな、休んでいい?」

「冗談は顔だけにしろ」

 ひっで、と笑う岩村を横目で見る。その視線に気が付いた岩村が「なに、夕焼けに照らされる俺の顔に見惚れたの?」といたずらっ子のような顔で言うので、呆れてもはや突っ込む気もおきない。

「……お前もよくやるよな」

「『よくこんな茶番に付き合えるよな』?まあ、暇つぶしだよ」

「そうか。暇つぶしでも……」

 暇つぶしでも、お前たちがいるから頑張れている。喉元まで出かかった台詞をぐっと飲み込んだ。こんなの柄じゃない。岩村はそんな俺に不思議そうな顔をして、何かを察したのか。また意地悪い笑みを浮かべるのだった。

「ねえ、今日泊まっていい?」

「ダメだ」

「おっけ、そしたら一旦自分の部屋寄ってから行くから鍵開けて置いて」

「お前はすぐ調子乗るな、気をつけろよ色々」

「滝真の部屋泊まるの久しぶりだなー」
 俺の嫌味も物ともせず、上機嫌に鼻歌を歌い始める岩村にげんなりと息を吐く。
 この男は何も聞いていないんだな、黙り込んだ俺の様子に岩村は更に機嫌を良くして、あれやこれや、楽しそうにこれからの話を続けるのであった。

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