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「二対一で分が悪かった。逃がしたことは完全に俺のミスだがすぐに追いかけなかったのは被害者を第一に考えた結果だ。お前は被害者と加害者だけをその場に残して逃げた奴を追いかけるのか?それが風紀の方針か」

「はっ、減らねえ口ききやがって、碌に仕事もしてねえくせに物言いだけは一丁前なんだな生徒会長様は」

口が減らないのはどっちだよ。
会長としてなど到底敬っていない、遠慮のないその物言いに青筋が立つ。仮にも生徒会長、仮にも年上に対してよくそんな発言を出来たものだ。
あーもう完全にむかついた。誰が仕事をしていないだって?そもそも生徒会の仕事の何を知ってるんだ、仕事してなければこんなとこにいないだろうが!

「そもそも施錠の確認は風紀の仕事だろう、お前らこそどうなってんだ、仕事ちゃんとやってんのか?毎日の見回りはただのお散歩か?」

「ああ?なんだてめえ、喧嘩売ってんのか…?」

「そっくりそのまま同じ言葉を返してやる。さっきの発言はお前が目の敵にしている俺だけじゃなく生徒会そのものに喧嘩売ってんだよなぁ、まさか私怨じゃねえよなあ?」

にらみ合う二人の間には見えない火花が散る。
にやにや笑いながらただ成り行きを眺める清原も、呆れた様子でいるも全く介入してこない加賀谷も、ネクタイを掴まれたまま青い顔をして失神しかけている生徒も、誰も俺たちの間に止めに入る様子はない。

全力で喧嘩を売りにくる植木も悪いが、年下相手に本気になる俺も俺だ。
っていうか清原は悪意しかないしむしろ清原の悪意故のこの事態という事がわかっているが加賀谷、てめえはなんなんだ。自分は関係ないみたいな顔しやがって、植木の保護者のくせに。そう思うと植木のせいで頭に昇っていた血が次第に落ち着いてきた。

いまするべきは風紀の子犬とじゃれ合うことではない。一階に待たせた後輩の事を思い出して、冷静になるべきだと自分を律する。


「はあ…やめだやめ。これ以上つまんねえことで突っかかってくんな、時間がもったいない」

「何てめえが取り仕切ってんだよ、勝手に終わらせんな!」

おいおいおい、一回終わらせようとしてるのにまだ続ける気か?
こちらの意図など関係ねえと言わんばかりに全く引き下がろうとしない植木に、いい加減にしろよと一喝入れてやろうかした、その時だった。
今まで腕を組み只管傍観を決めこんでいた加賀谷が突如おい、と一言口にした。その声に反応して、まるで訓練された犬のように一瞬で背筋を正して加賀谷に目を向ける植木に、完全に出遅れる。

「空、いい加減にしろ。うるせえ」

「……すみませんでした、影也さん」

はあーー?植木のそのあまりの物わかりの良さに唖然とする。
加賀谷の一言で下がるんだったら今までのはなんだったんだよ!態度違いすぎるだろうが!その様子はまるで飼い主に窘められた犬のようだ。

黙り込み一瞬で静かになる植木に怒りを通り越してもはや呆れてしまう。問題は植木だが、加賀谷も加賀谷だ。一言でこんなにもすんなり下がるんだってのに、ここまでヒートアップするまで何も言ってこないなんてどんな教育方針なんだ。ちなみに清原は論外だ問題外。
今の場面だけで充分わかるだろう、風紀の幹部は全員頭がおかしいということが。


「……もうなんでもいい。下の数学準備室でうちの戸際が待ってる。被害者と加害者両方を一人で見てるんだ、早く行ってやってくれ」

「ああ、そっかーそういえばそんな連絡もあったねえ。空くん、駄犬くんと仲良かったよね、行ってあげなー」

「別に仲が良いとかそういんじゃないですけど。同じクラスってだけっすから」

「うんそっかあ」

植木の反論も聞いてるのか聞いていないのか、清原はにこにこ笑って、口にはしないもののさっさと行けと植木に手を振っている。

二人の所属する最上級クラスであるクラスSはよっぽどの事がなければクラス替えもないし、例え仲の悪いとされる風紀と生徒会の役員同士と言えど気心が知れていたって変な事ではない。
何か言いたそうな植木だったけれど、問答無用に手を振る清原の様子に今は何を言っても聞き入れてはくれないだろうと、静かに男のネクタイを引いて階段を下っていった。
確かに植木と常盤はそれなりに波長が合うようだったから、きっと下でもうまいことやるだろう。ちなみに、清原の言う駄犬くんとは戸際のことである。

「駄犬はやめろ、あいつはそんなんじゃないだろ」
「そうだねぇ気を付けるよ」
「……はあ」
「ふふ、わんちゃん同士気が合うんだろうね、可愛いねえ」


俺の指摘なんて右から左へ受け流す清原はいつものことだが、まさかのかわいいときた。
植木を見送る清原の横顔を信じられない思いで見つめる。全くわけわかんない感性をしてやがる。
そんなことを思っていると加賀谷が清原に目配せをした。

「聖希、お前も行け」

「えー俺もー?空くんがいれば大丈夫でしょ」

「あいつ一人では処理しきれねえだろ」

「ええ、そうかなー」

「いいから、早く行け」

はーい。と間の抜けた返事をしてから「それじゃーね、かいちょ」とその場でくるりと回って軽い足取りで階段を下っていく清原。
その後姿が見えなくなった頃に漸く嵐が去ったと、どっと溢れ出た疲れで身体が重たくなった。
なんなんだあいつ、風紀を守るどころか散々乱してってるだろ。勘弁してくれ。

清原と植木が去り、俺と加賀谷のみがその場に残る。漸く落ち着いた空間に、本日何度目かわからないため息を吐き出した。




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