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流石にもう、追いつけないだろうか。

静寂に包まれた階段をできる限り音を出さないよう気をつけながら、ほかに誰かの足音でも聞こえてきやしないかと耳を澄ましながらゆっくりと上っていく。
しかしそんな期待じみた思いとは裏腹に、結局自分の上履きが廊下を擦る音のみが静かな階段に響いて他には何ひとつ物音は聞こえはしなかった。

二階までたどり着いて廊下に目を向けるが人影は一つもない。そのまま三階に続く階段を見上げて、ふむ。とその場で顎に手をやり考え込むポーズを決める。


逃げる者の心理的には、どうだろう。二階で止まるか、それとも三階まで駆け上がるか。
まあ、まず教室のある方向へは行かないだろう。いくらこの学園内では教師よりも生徒会や風紀の方が力が強いとはいえ、授業中に一般の生徒が出歩くのを良しとするわけがないし、生徒側だってこんな時間に出歩いていれば声をかけられる事くらいわかっているはずだ。

ならば教室のある方向とは逆、使われていない特別教室のある方向か。確かに、それは大いにあり得る。
特別教室はどの階にもそれぞれあるが、四階だけはクラスで使われる教室がない唯一の階だ。
しかしだからと言ってそこまで上がるだろうか。…いや、四階まで上がってしまったら後は屋上へ続く道しか残されてない。追い詰められるような行動は本能的に避けるだろう。追いかけてくるものからなるべく距離を取りたいのも本能。ならば、三階か。


光が差す踊り場を見上げた。誰もいないし、何も聞こえはしない。俺の答えは間違ってるかもしれないし当たっているかもしれない。
けれど、当たっていたとしても追いつける保証などないし、というかどちらかというと可能性は低いだろう。
それでも俺は追いかけることを決めた。一度決めたことを途中で投げ出すつもりなど、微塵もないのだから。


迷いを断ち切るように手すりに手を置いてゆっくりと階段を上っていく。
三階の、教室のある方とは逆方向。たとえば、身を潜めるとしたら突き当たりにある図書室…あたりか。

階段を上りながらそう思案しているとふと、足音と共に影が落ちる。

…逃げた男が戻ってきたのだろうか。

そんな期待がなかったわけではない。
そんな都合の良いことが起こったっていいだろうという、希望的観測があったことも確かに事実だった




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