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「お前は頼まれたのか。…親衛隊の制裁か?」

「親衛隊?違うね。あいつの名前知ってるか?」


的外れなことを言う俺に対して嘲るよう、溝内は口元に笑みを浮かべながら顎で廊下を指した。

あいつ、とは被害生徒のことか。
そういえばまだ彼から名前を聞いていなかった。
知らない、と首を振ると溝内はより一層笑みを深くさせて俺との距離を詰める。息が触れ合うほどの距離で溝内は俺の腰へと腕を回すと囁くように言った。


「相良成(さがら なる)。なあ会長さんよ、この名字に覚えあんだろ…?」

「相良、?」

ぞわりと背筋が凍るような感覚。
相良。そうある名字ではない。そして溝内が言うように、確かにその名字には覚えがあったのだ。


「今回あいつが標的にされたのは親衛隊の制裁の為じゃねえ。あいつの兄貴が、お前たち生徒会の役員で、そしてあんたの大切な親友だからだよ」

溝内の台詞に言葉を失くして、溝内の濁ったような瞳をただ見つめる。

相良秋(さがら あき)。
同じく高校3年で生徒会補佐を務める。しかし現在は持病の悪化による療養のため学校には通っていない。

俺と秋は幼い頃からの友人だった。それもこの学園に入る前からの古い付き合いだ。だからこそ溝内のいうことには不可解な点だらけで到底信じられるような話ではなかった。

しかし、わざわざすぐにバレるような嘘をつくメリットなどないはずなのに、なぜ今?
ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべる溝内をきつく睨みつけてその肩を押す。溝内がおっと、と声を上げて二歩下がったのを確認して小さく首を振った。


「嘘だ。あいつに、…秋に弟はいない」

「はぁ。金持ちの事情なんて色々あんだろ?
そんなことより気になんねーのか?補佐の弟が狙われた理由。役員の弟なんて、普通狙われないよなぁ?」

「……どういうことだ。誰が、指示した?」

含みを持たせる溝内。彼の思い通りに事が進んでいるのは気に食わなかったが、そんな風に言われて仕舞えば聞かずにはいられなかった。

溝内は乾いた唇を舐め、やけに優しく微笑んだ。


「反生徒会組織。…帰宅部の連中だよ」

溝内の口から出てきたそれを口の中で繰り返した。

それには聞き覚えがある。
反生徒会組織。通称、帰宅部。生徒会を潰す活動を主にしているという非公式の組織である。
その存在はこちら側も一応認知している程度で詳しくは知らない。ただその組織の名前を初めて聞いたのは俺が高等部に上がってからすぐの事だったから、少なくとも2年は組織として続いている。ということになるのか。

今までは特に目立った活動も実害もなかったので放ってはおいたのだが、まさかこんなところでその名前を聞くことになるとは思いもしなかった。

これは詳しく調べてみる必要がありそうだと考え込んでいた、その時だった。


「会長!やっぱりこっちだったんですね、状況は……」

開けっ放しだった教室の入り口から現れた人物に目を向ける。肩で息をしながらゆっくりと近づいてくるのは戸際で、教室内の様子に何かを察すると口を引き締めた。

「悪い、俺の不注意で一人逃がした。こっちへ向かう途中怪しい奴は見かけたか?それと、風紀に連絡は」

「怪しい人…は特に、というか誰ともすれ違いませんでした。風紀には今向かってもらっています。丁度見回り中だったみたいで、すぐに駆けつけるとのことです」

「…そうか。お前は風紀が着くまでとりあえずここにいてくれ。風紀が来たら溝内……加害生徒は風紀に任せて、お前は被害生徒を連れて保健室に」


「会長は何を、」

「追いかける」

俺の答えを不思議そうに反復して、それから唖然とする戸際に、風紀と生徒会のメンバーの中で逃げたやつの顔を見たのは俺だけだと誰もいない廊下に目を向ける。

戸際が誰ともすれ違わなかったということは階段を上っていったに違いない、間に合わないにしても風紀の連中を無駄に待つ時間があるのなら追いかけでもした方がよっぽど良い。

興味なさそうにそっぽを向き壁にもたれかかる溝内を一瞥する。戸際に溝内の生徒手帳を手渡して、開けっ放しの扉から教室を出て行った。


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