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「っち、くそ!!」
「…!」

隙をついてもう一人の茶髪の男が俺の横を通り抜ける。
咄嗟に反応する事ができず、男は俺が伸ばした腕をすり抜けるとそのまま教室から飛び出していってしまった。


やってしまった。
完全に意識が金髪の男に向いていたせいで反応が遅れた。
このままでは逃げられてしまう。遠ざかっていく足音にすぐに追いかけようとするが、先ほどから動かず固まったままの被害者側の生徒に気がついてはっとする。


…大人しくなったとはいえ流石に、この部屋に金髪男と二人きりにするわけにはいかない、か。

廊下をかけていく男の後ろ姿を睨みつけながら、上手くいけば戸際とかち合うかもしれない、どうにかうまいこと行けばいいのに、と願わずにはいられなかった。

「……はぁ」

手間は増えるが仕方ない。
後で金髪男に対しての尋問とこの時間の授業欠席者を確認すれば良い話だ、それで確実に捕まえることができる保証はないけれども。


座り込んだまま動けずにいる生徒に近づいて目線を合わせる。
大人しそうな雰囲気のその生徒は肩を揺らして、目にいっぱい涙を溜めたままありがとうございます、と聞き取れるか取れないか微妙な大きさの声で、そう礼を述べた。


「もう大丈夫だ。安心していい」

「っ、……は、い、…」

「ここじゃ嫌だろ、一回廊下に出よう」

小さく頷く生徒に手を貸して立ち上がらせて廊下へ誘導する。

彼が廊下に出ていったのを確認してから、壁にもたれかかってこちらを伺う加害生徒に目を向けた。


「生徒手帳貸しとけ。お前は動くなよ」

「……っち」

「……三年クラスF。溝内か」

やはりクラスFだったか。
生徒手帳に視線を落として確認していく。溝内はつまらなさそうに窓の外に目を向けて鼻を鳴らした。


「前代未聞クラスF出身の生徒会長様ならわかってくんねえかなぁ。別にヤりたくてやったわけじゃねえって事」

「……そういう言い訳は俺じゃなくて風紀の連中にする事だな」


「風紀ねえ、あいつらはこっちの言い分なんて聞いちゃいねーよ。他の奴に頼まれたって言ったって別に罰を軽くするわけでもねえしその頼んできた奴を捕まえることもしねえ。元締めを捕まえないから一向に暴力沙汰がなくなんねーんだよ」


生徒手帳から顔を上げて溝内へ視線を移す。

風紀のやり方は詳しくは知らないが、前年度と比べると確実に実績は上がっている。
それは今年度委員長になった男の容赦のない処罰や対応、それから見回り強化などの対策のお陰だが、それでも追いつかないほどここ最近では事件が増えているのだ。

元を断たなければ意味がない、溝内がそう言う意味もよく理解している。
しかし実際問題そんなに口で言うほど簡単なことでもないからこそ、学園内での不祥事は減らないのだろう。

溝内の生徒手帳を内ポケットに突っ込んでその場で腕を組んだ。

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